成田空港上空に近づくと、石油コンビナートやら、コンテナ置場やら、所せましとパイプが敷き詰められたプラントが見えてきた。なんの感動もない、見慣れた、日本の湾岸の景色である。しかも、外は雨。思わず

"ださっ"

とつぶやく。西海岸は雨が少なく、快晴が多い。それに比べ、厚い雲に覆われ、しっかり目の雨の日本。成田エクスプレスの売り場に並ぶと、雨で運休だと言う。京成スカイライナーに切り替え、全席指定の特急列車に乗った。列車の中は外国人も多く乗っていた。走り出してすぐ次の駅に止まると日本人が多く、ずかずか乗って来て、足早に自分の席へ向かう。そして、私の席の前に座っている白人男性二人に向かって、

「すいません」

とぶっきらぼうに話しかけると、二人は慌てて立ち上がり、その日本人は当たり前のようにその席に座った。立ち尽くす二人。ほどなくして、チケットを確認した二人は別の車両へと移動して行った。座る席を間違えたのだろうが、その光景を見ていた私は、何てぶっきらぼうな日本人だ。せっかく日本に観光に来てくれているのに悪い印象を持たれてしまうじゃないか。と思いながらも、ひとごとの様に、スマホをいじり、ひとごとの様に週刊誌はめくらないまでも、知らんふりをした。アメリカで困っていて、さんざん助けてもらい、私も同じように困っている人を見たら助けてやろうと思っていたのに、体が反応しない。動き始めた窓の外は雨。あまりに当たり前の日本の景色がそうさせるのか。人は1週間程度の旅行で変わるものではないのか。いや、何かが変わったはずだと言い聞かせながら、42歳、家族持ちにして、単身アメリカ旅行は終わった。

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