そこまで俺が話すと、真人が鋭い声で引き止めにきた。真相を知った今、このまま何もせずに戻らせはしまいと思ったのだ。

「亮介、ここでの生活も良かったって言ってくれたじゃないか!だったら、これからも俺たちと…!」

「ありがとう、真人。みんなと過ごしたこの約1年の時間が、俺にもう一度、人生を前向きに生きるためのきっかけを与えてくれたんだ。向こうの世界で、妻と子どもたちを残して、やり残していることを、そのままにするわけにはいかないんだ。」

真人はしばらく俺の方を見据えた。そして、俺の決意を知ると、真人はそれ以上、何も言わなかった。彼自身が、親友として俺にかけるべき言葉は、『今』に留まらせることではなく、然るべき『未来』の人生を全うさせることだと思ったからだ。

「そうか…。お前がそう決断したんなら、俺たちができることはもう、お前を黙って見送るだけだ。お前が、向こうの世界で、後悔の無い人生を送ってくれることを、願うだけだ。」

「ありがとう、真人。」

真人の言葉が、俺は嬉しかった。2人に巡り会い、同じ時間を共有できたことは、かけがえのない財産だと思った。名残惜しい時間はまたたく間に過ぎていき、空が少しずつ明るくなり始めているようであった。

「さぁ、もう行くわよ!夜明けまで、あと30分くらいだわ!」

「分かった、今行く。それじゃあ、今までありがとう!もう、行かないと…」

この世界への未練を断ち切り、空間へ飛び込む準備を整えようとした、まさにその時であった。

「亮介君!」

全身から発したような叫びで、絵玲奈が俺を呼び止めた。

夜明けが近づいており、リミットの時間が迫ってきていた。それでも、まだ少しは、みんなと過ごせる時間が残されていた。