クリスマスまであと1ヶ月、誰もがその雰囲気に染まっていた。若菜も妹たちへのクリスマスプレゼントを探しに、新宿や渋谷で色々と見て回っていた。
そんな中、今回の相談者である美咲が若菜のもとを訪ねた。
美咲は、過去の思い出と現実のはざまで苦しんでいた。
美咲は1年前のクリスマスに、彼氏とケンカ別れしていたのである。しかし、その時の一時的な感情が原因で関係を壊してしまったことを、美咲はひどく悔やんでいた。
できることならば、大好きだった彼とやり直したい、しかし、それはもはや叶わない願いとなってきていた。それというのも、元彼には半年前から、すでに新しい彼女がいるのであった。それならば、せめて彼との思い出をきれいに精算したい、若菜にそのための力を貸してほしいということであった。
若菜が2人の状況を確かめると、すでに携帯も繋がらなかったため、まずは大輔との接触を図ることにした。
数日経ったある土曜日、若菜はあるホームセンターにいた。店内をしばらく回っていると、一人の男性が熱帯魚のコーナーにいることに気づいた。
若菜はすかさず、男性に近づいて話しかけた。
「突然すみません、松田大輔さんじゃないですか?」
見覚えのない女性に声を掛けられ、大輔はキョトンとしながら対応した。
「ええ、そうですが、あなたは…」
大輔がそう尋ねると、すかさず若菜は改めて自己紹介をした。
「あ、すみません。申し遅れましたが、三鷹病院で恋愛相談医として勤務しております、双葉若菜と言います。小宮美咲さんとのことについて少しお話を伺いたいのですが…。」
若菜がそう言うと、大輔はややムッとした様子で若菜に応じた。
「それでしたら、僕の方からは何もお話することはありません!僕と彼女はもう、アカの他人同士ですから。聞きたいことはそれだけですか?それならば、この後予定がありますのでこれで。」
「あ、ちょっと、待ってください!まだ続きがありまして…。」
若菜がそう引き止めにいくと、大輔は丁寧に、しかし淡々と若菜に答えた。
「今日は急なことですし、また日時を改めて、教えていただいた勤め先のところへ伺いますよ。それでは、今日はこれで。」
そう言うと、大輔は熱帯魚のエサと装飾を購入し、その場をあとにした。
その時、若菜は大輔の言葉に納得していた。そりゃあ、そうだ。会ったこともない相手に別れた彼女のことをしつこく聞かれて気分が良いわけない。そう考え、病院で大輔が訪ねてくるのを待つことにした。
それから1週間経ち、2週間と過ぎていった。しかし、大輔は現れなかった。
しまった、うまくあしらわれた…。そう思い、若菜は再びホームセンターを訪ねた。しばらく店内を回り、大輔が現れるのを待ってみた。しかし、いくら待っても大輔は姿が見られなかった。
気を揉んだ若菜は、熱帯魚の販売員に大輔がここ最近訪ねてきていないか尋ねてみた。すると、最近は全く見かけていないということであった。
仕方なく、若菜は相談室で大輔が訪ねてくるのを待つことにした。
翌日、いつものように相談を受けていた。
「次の方、どうぞ。」
すると、現れたのは大輔であった。相変わらず、どこ吹く風といった様子であった。
「あ、松田さん。来てくれたんですね!」
若菜の反応とは対照的に、大輔はかったるそうな感じで若菜に話しかけた。
「やれやれ、先生には負けましたよ。あそこであしらえば流してくれるかと思いましたが、まさか粘ってくるとは…。まぁ、いいでしょう。話くらいは伺いましょう。美咲さんについて、何をお尋ねしたいんですか?」
この機会を逃すまいと、若菜は単刀直入に用件を伝え始めた。
「あと一度だけ、美咲さんに会ってもらえませんか?美咲さん、松田さんに最後に『さよなら』をきちんと伝えたいって私にお願いしてきたんです。彼女の願いに…応えてください!」
美咲のために、短い言葉だが、ありったけの熱意を大輔に伝えた。しかし、その時の大輔の心に、若菜の熱意は届かなかった。
「そういうことですか…。残念ながら、ご希望に沿うことは出来ません。僕には今、他に愛する人がいます。美咲さんとは会うべきではない。」
若菜は食い下がった。これを逃したら次の機会の保証なんて無かったからだ。
「気持ちは十分承知ですが、そこを何とか…!10分…いや、5分で構いませんので…。」
「残念ながら…。無理な相談になりますね。」
のれんに腕押しであった。そう言い、部屋から出ようとした大輔は、最後にショッキングな事実を若菜に告げた。
「美咲さんに伝えて下さい、先生。『思い出は全て処分した。写真も、旅先でのお土産も、君への愛情も全部』って。それがせめてもの手向けです。それでは、失礼しますね。」
若菜は唖然とした。いくらケンカ別れしたからって酷すぎではないか。