その頃、勇次はスケジュール調整に悩んでいた。合コンで意気投合した相手と出かける話になったのだが、あいにく、その日は上司とのゴルフの予定が入っていたのだ。携帯が鳴ると、珍しい若菜からの電話に、勇次のイタズラ心が湧いてきた。

 

「どうしたんだい、若菜ちゃん。僕にデートのお誘いかい?予約待ちたけどねねー!」

 

冷やかす勇次に若菜は思わずため息をついた。

 

「相変わらずですね、大沢さん。ちょっと相談したいことがあるんです。」

 

ふざけてはいるが、勇次のスキルの高さは若菜も十分に承知していた。由衣が彼氏からDVを受けていること、なるべく穏便に解決に導いてほしいことを勇次に伝えた。話を聞き終え、若菜に共感するように勇次も話し出した。

 

「ひでぇ話だな…、最近そういった事例が増えているとはいえ、ガイシャの気持ちを考えるとやりきれない気持ちになるな。で、被疑者はどこの馬のホネか、何か具体的な情報持っているかい?」

 

勇次がより具体的な情報を尋ねると、若菜は由衣たちの最寄り駅と龍之介のフルネームを伝えた。すると、勇次の声の調子が明らかに変わった。

 

「え、最寄り駅が東久留米で、被疑者の名前が村田龍之介、これで間違いないんだよな?」

 

勇次は驚きを隠せない様子で若菜に内容を確認をしてきた。

 

「ええ、そうですけど…。何かあるんですか?」

 

「あぁ、多分そいつ、俺の部下だわ。間違いない。少し前に、彼女と暮らし始めたとか言っていた。」

 

恐らく勇次と同じくらいに若菜も驚いた。意外な人物から、接点が見つかったからだ。しかし、若菜の話を聞いてもなお、勇次は半信半疑であった。

 

「しかし、俺が知っているアイツは冷静で優秀な人間だ。若菜ちゃんの言っている人物とそいつは同姓同名の別人か、そいつならばその時偶然にとしか思えないな、俺が受ける龍之介の印象だと。」

 

 勇次はしばらく時間が欲しいと若菜に伝え、その時はそこまでとなった。直後に勇次のところに現れた龍之介には、勇次が上手く話を隠した。

 

数日後、研修で立川まで出てきた勇次と龍之介は、直帰してそのまま飲みに行っていた。研修や仕事の話に交えて、新生活の様子を聞き出した。時々ケンカになるが、慣れてきて上手く軌道に乗り始めたと、これといって気になる様子は見受けられなかった。

 先日、大規模な組織密売の中枢の壊滅に手柄をたて、ついに警視への昇任かと噂された勇次は、龍之介にとって憧れの先輩であった。そんな噂もあってか、龍之介から見て、珍しく勇次のアルコールがすすんでいるように思えた。

 

帰り道、いつもならばそのまま2人は帰宅していた。しかし、その日に限って、勇次が龍之介に急な注文をしてきた。

 

「たしか、村田の家って、ここか近かったよな。ちょっと寄らせてもらってもいいか?」

 

「え、今からですか?」

 

 龍之介は戸惑った。今からだと部屋も大して片付いてなく、勇次を十分にもてなすことができないと考えたのだ。そして、それ以上に、勇次に隠している秘密が万が一にでも知られることを恐れていた。

 

 しかし、流れからしてすでに、勇次を招き入れるよりほかなく、龍之介が由衣に電話を入れてから2人で部屋に向かっていった。

 

 ある程度片付けられ、勇次を招き入れるには問題ない状態になっていた。気になっていた壁や床も、ポスターやカーペットで隠し通せそうであった。由衣の作った軽食を片手に、出会いのきっかけから今の生活、これからの2人のことについて、勇次は話を振った。

 

 小1時間ほどして、終電が近づいてきたため、勇次は帰っていった。由衣が眠った後、龍之介は部屋を確認し始めた。勇次が2~3度、お手洗いを借りたため、怪しい動きがなかったかを念のために調べるためであった。30分ほど見て回り、特段そうした痕跡もなかったため、不安を抱えつつも龍之介も眠ることにした。翌日の勇次の様子も、突然押しかけたことを詫びた以外はいつもの頼れる勇次であった。

 

 1ヶ月後、管轄の車上荒らしの事件を整理していた時、勇次が龍之介を呼び出した。

 

「話があるんだが、ちょっといいか?」

 

急ぎの用事もなく、龍之介は作業にメドをつけると、呼び出された会議室まで足を運んだ。その会議室は、主に業務を行う部屋からは少し離れた場所にあり、内密な話をするのによく利用された。おおかた、勇次の人事異動か増員、自身の担当変更のことだろうと龍之介は考えていた。

 

龍之介が渡り廊下を進むと、何やらテープか何かの再生音が聞こえてきた。最初、何か物音や激しい声がする以外、龍之介は特に気にはしなかった。しかし、部屋に近づくにつれ、その内容が次第にはっきりと分かるようになってきた。