番外編 マダムお気に入りのお花屋さん | シャネルを着た悪魔の阿修羅道

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フランス語圏内のとある邸宅で働く個人秘書Aが綴る、よもやま話。

 

数あるお花屋さんの中でも、マダムがお気に入りのお花屋さんが一つあります。

 

そこは夫婦で経営している、フランチャイズなどではなくて

支店などもない、彼らのこだわりのお花屋さん。

 

旦那さん:クマのような風貌のおっちゃん。

お花の注文やアレンジメントなどを担当。

 

奥さん:ゴリラの中で最強の雄ゴリラシルバーバックのよう

(*もちろん女性です)

シルバーバックさんは経理を担当。

 

このカップルは見た目同様に少々癖が強め。

 

優先順位が決められないせいなのか、

単に自分のキャパを理解していいないだけなのか、

なぜかいつもいっぱいいっぱいの職人肌おっちゃんと、

お金を取れるところから絶対取りたいカネゴンシルバーバックさん。

 

おっちゃんとシルバーバックさんの見た目とは裏腹に、

そのお店は「ラブリー」でロマンチックそのもの。

色合わせもアレンジも、とにかく「ラブリー」なのです。

あのおっちゃんからこんな可愛らしい花束が生まれるとは

誰も想像がつかないくらいです。

 

マダムはおっちゃんが作る花束が大好きで、

(値段はべらぼうに高いのですが)

家に飾るのは彼らのお花屋さんから買いたい!

と望んでいました。

 

***

 

ところが、初代個人秘書狂犬秘書個人秘書C

巨乳美人ペネロペ家政婦長とは相性が悪く、

いつもおっちゃんがいっぱいいっぱいの時に

無理難題を頼むため、おっちゃんがキレるパターン。

そして、

 

「あんな花屋には2度と頼みたくない!!」

 

と言い出す始末。

頼むか頼まないかを決めるのはマダムなのですが、

下に反発されてしまってはマダムも為す術がありません。

 

歴代秘書も家政婦長も上から目線で物申すため、

おっちゃんもシルバーバックさんもそれを嫌がります。

 

***

 

その後、おっちゃんとシルバーバックさんの下で働く女性が、

職場には内緒でマダム宅にお花の配達をしてくれることになりました。

もちろん彼女のお昼休み時間中で仕事に支障がない範囲です。

支払いもきちんとしていました。

 

ところが、この女性は体型がぽっちゃりなせいか、

少し頭が弱いのか、色々とゆるゆる

 

時間を守らない

配達予定日を忘れる

・選んだ花と配達された花が違う

・花のボリュームがどんどん減る

 

などの問題がありました。数回警告をしたものの改善されず、

結局マダムが愛想を尽かして契約を切ることに。

というかもともとブラックなので契約なんてなかったのです。

 

そこでマダムは、歴代の秘書や家政婦長も去ったことから、

またお気に入りのお花屋さんで注文をしようと決めたのです。

 

***


実はマダムは時々チャリティーイベントを開くのですが、

その時にこのお花屋さんに頼むことがあったのです。

その時にイベントマネージャーを頼んでいる人に

 

「あのお花屋さんにコンタクトして欲しい」

 

と頼んだところ

 

「え!あのお花屋さんはマダムが嫌いでNGなお花屋さんだと聞いていました!」

 

と驚かれたのです。

どうやら昔の秘書(恐らく個人秘書C)が、このイベントマネージャーに

 

マダムはあのお花屋さんが嫌いだから絶対に頼まないように」

 

と間違った伝言ゲームをしていたようなのです。。。

マダムが嫌いなのではなく、個人秘書C家政婦長が嫌っていただけなのですが。

知らぬところでマダムのネガティブキャンペーンが行われていました。

 

***

 

私はマダム経由で歴代の秘書たちとお花屋さんたちの争いを聞いていたものの、

実際にお花屋さん夫婦と接するのは初めてだったのでドキドキでした。

 

どんな上から目線の嫌な輩な花屋さんかと思ってコンタクトしてみたら、

おっちゃんはもちろん、シルバーバックさんも丁寧な人で心底驚きました。

2人とも結構まともな受け答えをしてくれます。

 

見積もりをお願いしてすぐにシルバーバックさんから電話がきて、

そのあとすぐにチャリティーイベントの寄付のお願いが来たときは

 

「あー、この人はカネゴンだな」

 

とわかりましたが、それ以外は本当にいい夫婦だと感じました。

 

そして年が明けて少ししてから彼らに頼むことに決定。

今までの倍額とは言いませんが、結構いいお値段(私は払えません)ですが

今までに比べたら毎回お花のボリュームも多いし、

お花の種類もバラエティーがあって、見てて気持ちがいいです。

そしてやはり「ラブリー」なのです。

 

1度目のトライアルの時はおっちゃん自らが配達に来てくれましたが、

契約が決まってからは一切来なくなりました。

そしてもちろん配達の時間はバラバラ

 

一番困るのがムッシュとマダムの到着時間

わざと合わせたかのように配達に来ること・・・。

家政婦たちは大慌てになります。

 

でも、ここで上から目線でおっちゃんやシルバーバックを相手に

文句を言ってしまったら歴代秘書の二の舞になってしまうので、

私は配達日の朝に電話で支払いのクレジット情報をあげるついでに

 

「今日は何時ごろの配達になりそうですか?」

 

と、シレッと聞くようにしています。

あとはどんなに配達が遅くても文句を言わずにやり過ごす

それだけです。

ここで

 

「マダムたちの到着時間の前に配達してもらわないと困ります!

 

なんて言ってしまったらシルバーバックさんを敵に回します

その点はマダムも理解してくれているので、

家政婦さんたちには

 

「時間が定まらなくて大変だけど、臨機応援に対応してね」

 

と伝えています。

 

***

 

一つ困ったのが

 

「毎回、なぜか配達時に一つ分だけ花束が足りないこと」

 

これは私がよく確認しなかったのが悪いのですが、

以前に巨乳美人ペネロペ家政婦長が作った

お花屋さんマニュアルでの花瓶の数を参考にしてしまいました。

そしてそれを頼りに花瓶のサイズを測って見積もりを依頼したのですが、

普段使わないゲストルームにも花瓶が一つあったのです。

 

それを知らない家政婦たちは毎回

 

「一つ分だけお花が足りなかった」

 

と言って、再配達を頼んだのです。

 

数回続いてさすがにおかしいと思ったシルバーバック。

 

「見積もりと現実の花瓶の数に違いがあるのでは?」

 

と指摘してくれて、あらためて確認したら、その事実が発覚したわけです。

 

私は平謝りで謝り、

 

「今まで再配達を頼んだ分の支払いをします。

ただ次回以降ゲストルームは誰もいないため1つ増やす必要はありません

 

下心たっぷりで返事をしたところ

(契約しているんだし小さな花瓶一つ分くらいいいですよ!

と言われることを期待しての助平心丸出し

 

「それでは7回分の支払い、合計140ユーロを請求させていただきます」

 

とシルバーバックさんからカネゴンな返事がきて

 

どっひゃー!!

 

と驚きました。。。やはりカネゴン

仕入れ額なんて数ユーロだろうけれど、

その数十倍を取られていて、正直

 

「それくらいオマケしてくれるだろう」

 

と思っていた私が馬鹿でした。

 

ただ素直にお花が大好きなおっちゃんと、

カネゴンなシルバーバックさんがいるから、

このお店は長くこの街で繁盛しているんだな・・・

と実感した今日この頃なのでした。