秘密の楽園〜3



白銀の森に眠る聖霊獣の王セレン。

"いにしえ"の楽園の頃、アダムによって残酷にも体

を裂かれてしまったセレンだったが、深い憐れみの

中集まった動物達によって復活を果たす。

仲間達の魂の光を受けながら、白きドラゴンと化し

たセレンは"父"と仲間に感謝した。そして、あらゆ

る動物達─── 地上で人間によって理不尽に殺され

た動物達の安息地を作る事を誓った。

セレンの王国の誕生である。

楽園の片隅で、高位の一部の天使にしか心許さぬ、

それ以外の下級天使も恐れる深淵のセレンの森。

それは闇深く、そしてひっそりと静寂の中暮らす者

にとっての安らぎの聖域であった。

日々、"父"への感謝と共に、セレンは安息の森の王

として君臨する。


「セレン様、ウリエル様がいらしてます。あなた様

にとって─── いえ、この森のみんなにとっての

朗報だそうです」


眩く輝く白銀の湖が、ラヴァンの声を合図に静かに

波打ち始めた。暫くすると波打ちゆらいだ湖面から

、白銀の美しいドラゴンの頭が現れた。

ウリエルを見つめる真珠色の瞳は、最初に会った時

よりも穏やかで優しかった。

セレンはスーッと湖面を滑るように近づくと、ドラ

ゴンの姿から銀色の狼の姿に変わり宙を舞う。

愛しき大天使の広げた翼に向かい、セレンは思い切

りウリエルに甘えるのだった。

ウリエルも霊獣の王を、太陽の翼で優しく包み込ん

だ。


『またお会い出来て幸せです、ウリエル殿。

   太陽の香りは、わたしの癒し─── 』


ウリエルの柔らかな胸に頬擦りし、黄金の翼に守ら

れし森の王者セレン。


「あのねセレン、あなたに大事な話しがあるの」

『ラヴァンが"朗報"と。是非お聞かせください』


そこでウリエルは、セレンと聖霊獣達の安息地であ

る深淵の森を、自分達の新居である「秘密の聖域」

へ移す提案を伝えた。


「ね?セレン、私達と一緒に住みましょう。もちろ

ん、この森のみんなも一緒よ。いい考えだと思わな

い?」

セレンの艶やかな銀色の毛並みを整えるように撫で

ながら、ウリエルは歌うように囁く。

「今後は私があなた達を守るわ。毎日あなた達の森

に"父"からの加護を伝え、毎日私の讃美歌を贈りま

しょう。これからは自由なのよ。天からの監視隊の

目に怯える事もないの。日々、穏やかに過ごせるの

よ。それとね、このアイデアは実はルシフェル様か

らの提案なの」

『ルシフェル殿…… ですか?何故彼が…… 』

セレンは真珠の瞳を潤ませ、絶世の美少女の顔を

見上げた。


ルシフェルはきっと、アルカノだけを連れて行った

事をウリエルとアスタロトに咎められ、ほんの僅か

であるが気に掛けていたのかもしれない。

彼の性格上そんな繊細な気遣いなど考えられないが、

ウリエルはそう信じたかった。


「あの方を信じましょう。さあ!『秘密の聖域』

へ、私と共に─── 」