楽園の叫び〜3



─── 「忌まわしき者」


ウリエルは、厳格な老天使長がセレンに対し、先程

から侮辱的な呼び方をしてる事に反発を覚えた。

怒りがふつふつと沸いてくる。


オレンジがかった黄金の翼が炎を纏った時だった。

「ハシュマエル様、如何なる時も、この楽園に棲ま

う全ての動物達への侮辱は許しません。あの森への

対処は別としてです。あなた様の計画に対し、私は

反対出来る立場ではありません。ですが、天の使い

の者であるならば、せめて霊獣達への敬意と慈しみ

を持って下さい。何故、あのような聖霊獣達の集ま

る聖域が生まれたのか、その経緯を考えた事があり

ますか?」

ガブリエルは更に続ける。

「私は"父"の言葉を伝える者として、そして、天界

全体の安定を司る者として、セレンの森へのあのよ

うな仕打ちは到底看過出来るものではありません。

場合によっては"父"への報告も辞さないですよ」

冷静に淡々と、しかし怒りを含んだガブリエルの言

葉は、相手に反撃の機会すら与えぬ力があった。


暫し沈黙せざるを得なくなったハシュマエルは、

只々睨み通す事しかなくなった。


(我らの敗北?馬鹿な!)


「ガブリエル殿、我々はあの森を只闇雲に排除しよ

うとしてるのではないのだ。しかしだな、この楽園

にはたして相応しきものなのか、聖なる光を授かり

し場所なのか。天使界隈に潜むより、いっそ地上の

方が彼らには安住の地ではなかろうか?」

ガブリエルの顔色を伺うような老天使の物言いに、

ウリエルは益々不審を募らせる。

「誤魔化さないでください!あなたは天使界と楽園

を統治する者。けど、思い通りにならない深淵の森

と、その森に棲む霊獣達は"目の上のたんこぶ"でし

かない。ならいっそ人間界へ送り返そう、と。そう

いう事ですよね?ハシュマエル様」

ウリエルの怒りは頂点に達しそうだった。


『ウリエル、冷静になりなさい』


「─── ガブリエル様?」

彼女の意識下にガブリエルの言葉が伝わってきた。

見ると、ガブリエルの静かな緑色の瞳が、ウリエル

を諭すような視線を送っていた。


(わかりました、ガブリエル様…… )


「これで決まりましたな、ウリエル殿!君が奴らに

会いに行ったばかりに、(楽園は)酷い有り様になっ

てしまったのだ!この惨状はセレンの呪いなのだ!」

ヤーリエルの「奴ら」呼ばわりに「なんて事を!

何の証拠も無しに、セレンに罪を押し付けるつもり

ですか?」と、ウリエルは怒りの炎を上げ始めた。

「セレンでなければ一体誰の仕業だというのだ?

まさか君は天使界の中に"犯人"がいるとでも言うの

かね?ええ?」

ヤーリエルの勢いづく反撃に、ウリエルは一瞬怯ん

でしまった。

「どうなのかね?四大天使の一人が、まさか同じ

聖界の者を疑うとは!ハッ!こんな愉快な話しがあ

るとは」

厭らしい程に嫌味を突きつけてくるヤーリエルに、

ウリエルはいよいよ掌からメラメラと炎を立ち上ら

せようとした。


太陽の大天使の怒りは、地獄界の元支配者に相応し

い程に激しい。もはやガブリエルの言葉すら届かぬ

ようだ。


「─── ウリエル!いけません!」



と、その時である。

楽園の天を覆い尽くすような凄まじい巨大な稲妻と

、周囲を揺るがす雷鳴が響き渡った。