アルカノとセレン〜15



「名前をつけていただけませんか?」


深淵の森の王セレンとの約束を交わし、別れを惜し

みつつその場を離れゆくウリエルは、帰り道に案内

役である白蛇からこう頼まれたのである。

「あなたに?」

「(あなた様に)お願いするのは図々しいでしょうか?

─── あなた様のような高貴な方につけていただけ

たら、この上ない光栄です」

白蛇は小さな頭を、ペコリとお辞儀をした。

「ふふっ、いいわよ。ん〜 …… じゃあね……ラヴァン

、ラヴァンなんてどうかしら?」

「"ラヴァン"?」

「"白"という意味よ。どう?」 

瞼の無い蛇特有の表情の読めない彼だが、この時は

明らかにパッと嬉しそうな表情が表れたのだった。

「ありがとうございます!ラヴァン …… なんて素敵

な名前なのでしょう!さっそくセレン様にもご報告

せねば。ああ、セレン様に名前を呼ばれる気持ち、

今から胸が熱くなる思いです!」

「あなたは地上に楽園があった頃から、ずっと彼に

仕えていたのでしょう?セレンもきっと、あなたを

大切に思ってますよ、ラヴァン」

ラヴァンは嬉しそうにリズム良く、草の根の中を這

っていく。


入口付近であろう結界に来たウリエルは、ムリエル

の羽根をサッと取り出した。

「ラヴァン、主天使の中でも助けて下さる方がいる

かも」

羽根を頭上にかざし、一つの希望に賭けてみた。

「ウリエル様、その羽根は?」

「ハシュマエル様の部下でもあるムリエル様のよ。

この羽根のおかげで私は結界を抜けて通る事が出来

たの」

「ムリエル…… 様が?」

「そう。彼は、もしかしたら味方になってくれるか

も。残念ながら(結界を)解く事は出来ないけど、彼

を何とか説得してみる価値はあると思うの。私は諦

めないから。いい?ラヴァン。だから、あなたはど

うかセレンに寄り添ってあげてね。彼は動物達を守

る存在だけど、彼自身を勇気づけ、見守る相手が必

要なの。お願いね」

ウリエルはセレンへの思いを託すように、ラヴァン

の頭に軽くキスをした。

「わかりました、ウリエル様。けどウリエル様、

あなた自身もお気をつけ下さい。セレン様も心配さ

れますから」

瞼の無い瞳を潤ませ、大天使の行く末を心配する蛇

の使者。

ラヴァンは結界の"向こう側"へと消えていくウリエル

を見送った後、天を仰ぎ"父"に祈りを捧げた。


─── "父"よ、どうかセレン殿とウリエル様をお守

り下さい。


ラヴァンは信じていた。

天の"父"は自分達のような動物をも造られたのだ。

きっと…… きっと我々を助けて下さるにちがいない。



だが、そんなラヴァンの願いを打ち砕く事件が起き

てしまったのだ。

ラヴァンの願いだけではない。

それは、セレンの森全体が決定的な危機に陥ってし

まう事となった。