アルカノとセレン〜10



偉大なる"父"からの光降り注ぐ中、ウリエルは緑輝

く楽園に降り立った。柔らかな香りの草花を素足に

感じながら、彼女は黄金の翼を折りたたむと、先程

まで監視隊員らが旋回していた上空を睨む。



「これはウリエル様、ごきげんよう。今日はどちら

へ?」

ハシュマエルの息がかかってるだろう、監視隊員の

一人はウリエルの行動を探るような視線を送ってい

る。

「深淵の森よ。動物達の霊を守るセレンの森へ」

ウリエルの方も相手を探るようにジロリと見る。

一瞬怯みながらも大天使のご機嫌を伺うように、

「失礼ですが…… あそこへはどのようなご用で?」

と監視隊員は、あくまでも笑顔を崩さず聞いてきた。

「私の行動をいちいちご報告しなければいけないの

かしら?四大天使の一人として、楽園の"異変"を調

べるのも私の役目よ。ああ、そうそう!その"異変"

があった日、何故か警告のラッパが鳴っていなかっ

たような?私が聞き逃しちゃったのかしら?ねえ、

あなたどう思って?」

太陽の天使は翠色の瞳をキラリと光らせ、この男性

監視隊員をジッと見つめた。

黄金に輝く翼は、怒りの色を帯びている。

これに落ち着きをなくした隊員は、「ああ、も、申

しわけありません…… 。他に任務がございますので、

わたくしはこれで失礼致します!」と慌て部下達を

引き連れ去って行ったのだ。

この後きっとこの者達は、突風の如くハシュマエル

の下へ向かっただろう。



楽園の森を駆け抜ける風を受けながら、ウリエルは

先程の監視隊の行動を反芻してみた。

(まあ、いいわ。あの者達を責めても仕方ないわ)

「さて、と…… 」

気持ち改め、ウリエルは深い深い動物達の魂集う森

へと向かった。


奥へ…… 奥へ…… 。

結界のせいだろうか、セレンの棲まう森に近づくに

つれ辺りは異様な程静寂が漂い、森の緑は以前より

も暗く悲しげだ。それはまるで、アルカノの棲まう

地獄界への洞窟を思わせた。


そして再びウリエルは、例の繭のような"結界"で覆

われた深淵の森の入口に着いた。そっと"繭"に手を

添えてみたが、中からは霊獣達の気配は伝わっては

こなかった。もしかしたら、向こう側が拒否してる

のか。


「セレンよ…… あなたの声を聞かせて…… 。私の声が

聞こえますか?」

"繭"を優しく撫でながら、"結界"の向こう側に潜んで

いるであろう、深淵の森の王に声をかけ続ける。

「以前に約束しましたね。あなた達を必ず守り、救

い出すと。その日は遠くはありません。私を信じて

…… 」

そして翼の中から"ある物"を取り出し、"繭"の方へと

掲げてみせた。

いつか老天使の一人、ハシュマエルの部下である

ムリエルが落としていった羽根である。


『只怒りに任せてはいけません』


「主天使の間」で去り際に彼が囁いた言葉が、ウリ

エルの脳裏に甦る。


「"父"よ、森の霊獣達にご加護を─── 」

太陽の大天使はそう呟くと、手にしたムリエルの

羽根でそっと"繭"を撫でてみる。

すると、撫でた後がうっすらと光を帯び始めた。

ウリエルは二度三度とそれを繰り返す。


「はあ…… 」

目の前の結界が徐々に解けていく様に、ウリエルは

感嘆にも似たため息を吐いた。


─── セレンよ、やっとあなたに会える…… 。