王の秘密〜10



仲良し三人組生徒の一人リアは、例の「楽園」の本

と、今しがた天界図書館から借りてきた数冊の別の

楽園に関する本を自室で読んでいた。

勿論、親友ロジータとルルに宣言したように、楽園

の監視隊員になる勉強の為だったのだが、ちょっと

した確認をする為でもあった。


「あれえ……おかしいな?」

数冊読み終わった後、何か違和感を感じた。

もう一度、ペラペラとページを捲ってみる。他のも

同じように。

ブツブツと口を尖らせ、時には目次をゆっくりと確

認していく。そして─── 。

(やっぱりヘンだわ…… )

呆然とし、暫し宙に目をやり、考えをまとめようと

していた。

と、その時。

「リアーっ!(教室へ)行くよーっ!」

見習い天使達がよく集う広場から、友人のロジータ

とルルが帰って来た。

「─── ん?うん、今行くから先行ってて」

「早く来なさいよ」

「うん、わかった!」

二人が出て行った扉を、リアは暫く眺めていた。

(私の勘違いかな?)



「ダニエル達、まだ謹慎解けないのかな?」

「そりゃそうでしょ!あんな事しでかしたんですも

の。いくら優しいウリエル様だって、相当なお怒り

だったはずよ」

「あんな事」─── 勿論、ダニエル達が禁止されて

いた楽園の森の一部に、無断で入ろうとした行為で

あった。

少年天使達への「お仕置き」として自室謹慎とした

事は、他の生徒達にも説明済みだった。

「でも、彼らがいないと、ちょっぴり寂しいね」

「そうね、騒がしいのがいないと、ね!」

キャハハッ!

女子三人組の賑やかな笑いのせいで、リアの頭の中

にモヤモヤしていた疑問が、すっかり去っていた。

教室内は、謹慎中のダニエルとリコ、マーシュの三人

の席が空っぽの他はいつもと変わらなかった。

「あ、エイブリ!おはよー!」

赤い小鳥となったエイブリは三人の近くに降り立つ

と、ボーダー柄Tシャツにレモン色のショートパンツ

という、可愛らしい格好に戻った。

「おはよっ!さあ、今日も元気にいきましょー!」

オーッ!というように、勢いよく拳を突き上げる彼

女に、「もう!エイブリったら!」と小さな翼をパ

タパタと動かしはしゃぐ見習い天使達。


「ごきげんよう、私の可愛い生徒達!」

偉大なる"父"の光を授かりし大天使、ウリエルが生徒

達が待つ教室に、黄金の翼を広げ舞い降りて来た。

「おはようございます、ウリエル様!」

「あの、ウリエル様─── 」

サッと手を上げ、「ダニエル達はまだ…… 」とリア。

やはり、彼らの事が心配だったのだろう。自分達も

少年達から"あの日"について聞かされていたせいか、

何となく居心地が悪い感じがしたのだ。

「ん〜……もうちょっと、ね。もう少し待ってあげて

ね」

(もうそろそろ炎時計が終わる頃だわ。後で、あの子

達の部屋へ行ってみましょう)


この日の授業の終了後─── 。


リアとロジータ、そしてルルの三人が自室に戻った

後である。リアは例の「楽園」に関する本を取り出

し、数ページを捲ってみせた。

「ちょっと〜リア、帰って来てそうそうにお勉強?

監視隊員に憧れるのはいいけど、少しは私達と遊び

ましょうよ〜  ねえねえ─── 」

「ルル、ちょっといい?」

ルルがちょっかいを出そうとした時だった。

「ねえルル、誰から聞いたの?」

「えっ?何が?」

「『王に一度目をつけられると、決して逃れる事は

出来ない』って」

ロジータは思わずルルを見る。

「さっき教室で、ウリエル様から再度注意されたで

しょ?ダニエル達の事で」


『よく聞いて。もう一度言います。例の動物達の魂

が集まる森へは絶対入らない事。魂達を守ってる主

を決して怒らせてはなりません。いいですね?』


「私、思い出したの。ウリエル様は森の王セレンの

事は言っていたけど、『目をつけられると逃れられ

ない』なんて言ってないって。一度もよ」

「どうなの、ルル?」

そう言えば、というようにロジータが心配そうに問

う。

「えっと、どうだったかな?─── きっと、私も前

に『楽園』の本読んだ事あるから、それに書いてあ

ったの覚えていたのかも」

するとリアは再びペラペラとページを捲りながら、

「でもね、そんな事どこにも書いてないの。他の本

にもよ。こうね、何度も何度も確認したの。だから

ね、誰に聞いたのかな?って」

「……」

「ダニエル達の事があるから、それでちょっと心配

になって。誰に聞いたか教えてくれる?」

「んもう、忘れちゃった!どうでもいいじゃん、そ

んな事!」

「どうでも良くないよ。私、やっぱダニエル達が心

配だもの。あなたは心配じゃないの?」

「だ・か・ら、忘れちゃったって!しつこいなあ!」

急に怒りだしたルルに、リアは少し驚いた。普段、

滅多に怒る事のない彼女の態度に、ロジータも同じ

思いをしたようで戸惑っている。

「どうしたのルル?覚えてないのなら、それでいい

のよ。別にあなたを責めてなんか─── 」

「ならいいじゃん!元々あの子達が悪いんでしょ?

私達には関係ないでしょ!あの子達のせいで楽園に

遊びにも行けなくなっちゃったし…… 」

「ルル!そんな言い方良くないよ!ダニエルもリコ

もマーシュも大事な友達じゃない。だから─── 」

「もういい!」

ルルはプイッと戸口に向かうと、部屋を出て行こう

とした。

「ちょっと、どこ行くの?」

「お水飲んで来る!」


二人だけになった部屋の空間は、およそ天使には

似合わない、重苦しいだけの空間に変わっていた。

「私、失敗しちゃったかな……?」

「リア…… 」

「まるで(彼女を)責めるような言い方になっちゃっ

たかな?ルルが怒るのも無理ないよね」

「リア、今度は自分を責めるつもり?私はあなたが

悪いと思わないわ。心配なんでしょ?ダニエル達が。

それは私も同じよ」

「ありがとう、ロジータ。でも、今度はルルも心配

だわ。どうしちゃったんだろ?」

「ルルらしくないわね」

不安な霧のようなものが、リアの心の底から湧き出

して来ていた。

「私、謝りに行ってくる」

暫く扉を見つめていたルルは、部屋の外へと飛び出

して行った。

「あ、待って!リア!」


─── やっぱり、あんなのルルじゃないわ。

私の知ってるルルじゃない!