深淵の森の王〜7



ウリエルは、彼女の代理であったダラに感謝しつつ、

生徒達の授業を終えた。ダラの教えは完璧で、生徒

達の覚えもウリエルが驚くほどマスターしていた。


「あ、エルラ。ダニエルを呼んで来てくれる?」

授業終了後、柔らかな光の中、賑やかな笑い声を

響かせながら帰って行く少年少女天使。ウリエルは

近くにいた一人を呼び止めた。

「はい、ウリエル様」


「ダニエル!ウリエル様がお呼びよ!」

(えっ?な、なんだろ・・・。まさか・・・)

ぎょっとしながらも何とか平静を保ち(本人はその

つもりだが)、ウリエルの下へ戻って来た。

「あ、あの・・・ウリエル様、何でしょう?」

(ふ、ん・・・やっぱおかしいわね)

「後で私の部屋へ来てくれる?リコとマーシュも

一緒にね。いいわね?」

「はい・・・わかりました」

(やっぱり様子が変ね)

ダニエルという少年天使はちょっぴりおっちょこち

ょいの所があるのだが、基本とても利口な生徒なの

だ。


ウリエルは自室で巻物に執筆しながら待ってると、

やがて"怯え"の混じるノックがした。

「どうぞーっ!」

彼女はなるべく穏やかな声で、彼らに入るよう促し

た。

「失礼します・・・」

ダニエル、リコ、マーシュの順に入室した少年達は、

どの子もウリエルと目を合わそうとしなかった。

そんな彼らを少しでもリラックスさせようと、雲で

出来たフワフワ椅子を用意してあげた。

「まずはお座りなさい」

「あ、はい・・・」

ぎこちなく椅子に座る三人。ウリエルから見ても、

明らかにカチコチなのが分かる。それは、大天使を

前にしたからでは決してない。生徒達に対しいつも

暖かく見守るウリエルは、逆に彼らに安心と安らぎ

を与える存在なのだ。


「何かあった?」

前置きは不要。即、ウリエルは聞く。

「えっ?えっと・・・」

三人とも目が泳ぐ。

「『天使』として一番大切な事は?ダニエル、言っ

てみて」

「『嘘はつかない』・・・です」

「そうですね」

ここでウリエルは、フッと息を吐き出す。

「正直に話してね。私に嘘は通用しませんよ。で、

もう一度聞きます。何かありましたか?」

(どうしよう・・・)

益々三人ともうつむき、ぎゅっとしていた両手に力

が入っているのが分かる。

ウリエルは辛抱強く彼らが言い出すのを待ったが、

やがて━━━ 。


「ウリエル様・・・ごめんなさい。実は、あの・・

・あの森に行ってしまいました」

「で、でも"中"には入りませんでした!本当です!」

「僕は『やめよう』って言ったんだけど・・・」

「なんだよ!君だって乗り気だったくせに!」

「言い出しっぺはダニエルだよ!」

「そんな━━━ 」

「はい!そこまで!」

彼らは、まだまだ幼い。やはり、過ちを犯してしま

った事への恐れが大き過ぎた。お互いを責め合う姿

に、ウリエルはなるべく穏やかに治めようとした。

「あなた達は大切な友人同士じゃないの。お互いを

責めるなんて、恥ずかしいと思わないのですか?」

「ごめんなさい・・・」

「これは、一人だけの問題ではありません。で、

その"森"とは何処の森の事なのですか?」

そう聞きながらも、ウリエルには分かっていた。

自分達の口から、正直に、はっきりと告白させるの

だ。


「例の動物達の魂が集まる場所です。つい・・・

つい、好奇心で・・・」

「でも、"暗がり"が襲って来たから、怖くなって途中

で引き返したんです。でもルルが、あっ!」

しまった!というように、慌てリコは蓋をするよう

に、口に手を当てた。

「なんでそこでルルが出てくるの?━━━ まだ、何

かあるのね」

さあ、正直に話して!と、彼らを促す。

「ロジータ達の部屋に集まったんです」

こう小さな声で切り出したのは、物静かなマーシュ

だった。


少年天使達には十分分かっていた。ウリエルに対し

隠し事をするのは、決して不可能なのだと。

そして、全てを話した。

ロジータ達の部屋にて、自分達が"あの"森へ行った

事を彼女達に話してしまった、と。その時、ルル

から「あの森には動物達の魂を守る王が棲んでいて、

一度彼に目をつけられると、決して逃れられない」

と脅されたのだと。


「ルルがあんな事言うから・・・」

「彼女のせいじゃないでしょ?それで?」

「それで・・・えっと、怖くて・・・」

この気弱なリコは、今にも泣き出しそうだった。

「本当ですか?ウリエル様。ルルの言った事って。

本当に僕達・・・」


再び少年天使達は、部屋へ入って来た時と同じ、

石の様に固まってしまった。