リリスの想い〜6


「おい!あそこを見ろ!」
「あいつだ!化物だ!殺せーっ!」
「この悪魔め!」

激しい怒りをみなぎらせ、唸りを上げ闇から這い出
るかのようにリリスは人間達に向かって行く。

「出ていけ!あたしの森から出ていけ!」
凄まじき怒りの中、無数の大蛇を放つリリス。
男達は草木に火を付け、短剣や弓矢等で応戦した。
だが余りの蛇の数に男達は苦戦し、それどころか
次々と餌食となっていった。

「ギャーーーーッ!」
「喰われる!」
男達の悲鳴で引き裂かれ行く魔物の森は、まさしく
この世の地獄だ。
人間によって放たれた炎は荒れ狂う渦となり、リリス
の執念のように男どもを飲み込んでいく。

高らかに彼女の笑い声が響き渡る。
「馬鹿な人間どもめ!思い知るがいい!」

気分が良かった。
アダムの血を継ぐ者達の哀れな最期の悲鳴が、彼女
にとってこの上ない喜びに変わる。

"父"よ。これが本当のあたしの姿だ。
喜んで人間達の忌み嫌う者として、この闇の世界に
君臨しよう。
これからも人間ども(特に男達)を苦しめよう。

━━━ と、その時リリスの意識下に強い"ある思い"
が伝わって来たのだ。
それはまるで雷鳴の如く、強い思いだ。

『おやめなさい、リリス!もう人間に手を下すのは
やめなさい!』

ハッとした彼女は、炎の森の中動きを止めた。

「ウリエル・・・?」
(今、あの子の声が・・・)

人間達を襲い狂う大蛇の群れの中、炎の壁を貫くか
のように白い光が差し込んだ。
そしてそれは森全体を包んだかと思うと、リリスの
意識はそこで途絶えたのだった。

『リリス・・・リリス・・・』

━━━━ ここは?
意識を取り戻したリリスは、薄く目を開いた。
辺りは霧がかかっているようだったが、コバルト
ブルーの世界はまるで夜明け前の様子だった。

横たわるリリスの体に、柔らかで温かな手が触れる。
「リリス・・・大丈夫?」
耳元で鈴の音のような囁きが。
「ウリエル・・・なの?」
ゆっくりと起き上がる彼女の目の前には、美しい翼
の絶世の"美少女"が。

「ウリエル・・・何故あなたが━━━━ ?」
するとウリエルは、輝く翼でリリスを優しく包み
抱き締めた。
"太陽の日差し"が流れ込み、その瞬間リリスの目から
は大粒の涙が溢れ出した。

「ごめんなさい・・・ごめんなさいリリス。だいぶ
長い間あなたを待たせてしまったわ」

ウリエルもまた、美しい涙を流すのだった。
それは真珠のように輝き、二人を照らした。