看護師の仕事は、大きく分けて2つ。
患者さんが医療を受けることへのお手伝いと、患者さんの身の回りのお世話です。
いのちは尊いから、出来るだけ長生きしてね!
だから、痛い治療もがんばってね!
私も長く生きてもらえるようにがんばるから!
いのちは長ければ長いほどいいんだと思っていました。
そして、私はちゃんと看護できてるって気でいました。
ある日、210号室に入院していた銀次さんの病室から「おーい」っていう声がしたんです。
銀次さんは脳梗塞後遺症のため、自分で動かせるのは右手だけで点滴やオシッコの管などたくさんの管に繋がれて寝たきりでした。
いつも虚ろな目でボーッと何の感情も見せませんが、時々おしゃべりしてくれました。
「おーい」って声がしたので、おっ、銀次さん今日は調子がいいのかなって少しウキウキしながら、私は病室のドアを開けました。
「銀次さん、どうしました?」
「助けて、身体が動かないんだ」
「身体が動いたら、何がしたいんですか?」
私は、銀次さんのしたいことをかわりにしてあげようと思っていました。
銀次さんのために何かしてあげたかった。でも銀次さんの口からはとても悲しい言葉が返ってきました。
「身体が動いたら、死にたいんだ。もう静かに死なせて」
あれ?
私がしてきたことは、銀次さんを苦しめてただけだったの?
「ここに幸せはあるのだろうか?」と病院で疑問を感じるようになりました。
管だらけにされて虚ろな目でボーっと過ごす患者さんが病院にはたくさんいました。
「生きるって何ですか?」
「人間の最期って、こんなにツラくて寂しいものなの?」
「痛い思いさせてごめんね」
ツラく苦しい最期を見るたびに、「私には絶対延命治療しないで!」と自分の家族に言っていました。
そして、自分はされるのが嫌なことを、患者さんにしている自分を嫌いになっていきました。
つづく…