ライオンの狩りは思いのほか知的だ。
主な生息地であるアフリカのサバンナでは、獲物となる動物の大半はライオンよりも俊敏で、足が速い。無策に追い掛け回しても、逃げられてしまうだけだ。
では、どうするのか?
風を読み、地形を利用し、獲物の動きを予想しながら仲間と連携するのだ。
役割分担までしっかりとこなす。
ほとんど単独で狩りをするチーターも俊足にも関わらず、むやみに獲物を追いかけない。
並外れた俊足を発揮するには並外れたエネルギーを必要とする。全速力で走ることができるのはほんの数秒の間だけだ。
それに、獲物は追跡をかわそうと右に左に頻繁に向きを変えて逃げる。全速力で走っていては、その動きに付いていけない。
だからギリギリまで忍び寄って、驚いて一直線に駆け出す獲物を仕留めるのだ。
彼らが獲物とするシマウマやスイギュウの仲間、インパラなどの偶蹄目は固いヒヅメと強靭な脚力を持っている。大型の猫科肉食獣でもまともに蹴られると、即死もあり得る破壊力だ。鋭い角で目でも怪我をすると二度と狩りは出来なくなってしまう。
肉食獣にとって怪我は致命的だ。
外傷は小さくても感染症を引き起こすし、打ち身や捻挫は以後の狩りに支障をきたす。骨でも折ろうものならそれは死と同義だ。
実際、狩りで負った怪我がもとで命を落とす例は多いらしい。足を怪我して群れから離れたオスのライオンを、ハイエナの群れが延々と追跡して食べてしまったという例もある。
だから彼らはなるべく無傷で獲物を狩り続けなければならない。
飢えて、体力を落としてしまっては狩りそのものが出来なくなるからだ。
ただしライオンについてはチーターやハイエナが仕留めた獲物を強奪することが多い。
ライオンの獲物は狩りで得るだけではない。
実際のところ自分達で狩りをして得る獲物は半分にも満たない場合がほとんどだ。
死体をあさるか、他の肉食獣が倒した獲物を強奪するのだ。ライオンを相手に事を構えようという動物はいない。ある意味ではライオンの強力な牙と爪は獲物を強奪するためにあるとも言える。

このライオンの生態的地位とほぼ同じだと考えられているのが、恐竜では最も有名な部類であるティラノサウルス・レックスだ。
メスを中心とした群れを作っていたと考えられており、子育ても群れで行っていたとする説もある。
並外れた巨体と、その巨体には似つかわしくない小さな前肢から、狩り行動についてはずっと疑問視されてきた。
しかし体の構造から、それほど俊敏でもなければ足が速いわけでもなかったことが分かっているものの、一部の草食動物には生前に刻まれたと思われるティラノサウルス科の歯型が、背骨や尻尾の骨に残されている化石も多く見つかっている為、ある程度は狩りをしていたというのが現在の一般的な学説だ。
恐らくは身軽に動ける10歳から20歳程度の若く、小柄な個体が中心となり、20歳を超える大柄の個体は止めを刺すなどの役割分担で狩りを行っていたのではないかと思われる。
ティラノサウルスにはティラノサウルスの知性があり、その当時の環境のなかで驚くほど効率的に動いていたのではないだろうか。