昭和中期後半。俺はかつて、無知蒙昧なガキだった。当時の俺は、始終青っ鼻たれたランニングシャツのガキでね。鼻が詰まった時の思考力は朦朧としてて最低だった。特に記憶力。
その頃の俺は友だちもろくにおらず……ま、少しはいたが。
仲のいい友達が居ても自分から遊びに誘うとか出来ないほどシャイだったのさ。そこは今でも大して変わらないがね。
今でこそ、俺の人見知りの原因は、幼少期に家の都合で他人様の家へ預けられ遠慮しつつ育ったのが一因とは思うが当時はそんな事すら思考出来なかった。
そんな俺でも得意な事もあった。漢字が読めた事だ。もちろん難しぃ漢字は読めない事もあったが、1度覚えたあとは以後も読めるようになった。書くことは無理だったが。
漢字を読めることで内心天狗になってた。俺の知能は高い。だから隠さねばならないとね。
自分で自分を卑下していた事もあり、口には決して出さなかったけどね。
それが幼稚な頃の俺ね。
その頃から物語が好きで、よく、大きな町の図書館に通ってた。
王様と玉子を扱った絵本のシリーズが特にお気に入りだった。その図書館は自分の住んでる町からは隣の隣って、感じの場所でね。ガキの足からしたら相当遠かった訳だけど足繁く通ってたよ。あまり記憶には残ってないが、その頃既に児童用自転車に乗ってたかもな。補助輪付き自転車でキコキコ。だがその前には、川沿いの図書館まで徒歩で片道1時間ぐらい掛かってたかもしれん。それぐらい小さな頃の話だ。
絵本コーナーには、「フクちゃん」という大判の漫画シリーズも置いてあったな。「コボちゃん」と絵柄似てたから当時は同じ作者かな?と思ってた。
実際はどうだったろう?「コボちゃん」の作者が「フクちゃん」の作者の弟子だったかな。忘れた!……覚えてたら後でググろう。
そしてこっちは児童書コーナーだが、「宇宙戦争」っていう宇宙人の三本足の兵器の挿絵入りのSF作品をみつけた時はワクワクしたもんさ。
オーソン・ウェルズの奴だってすぐにわかった。
当時ウチは、朝日新聞を取ってた。本誌広告欄では英会話教材のカセットテープの広告を毎度のように大きく扱ってた。
スティーブン・キングの「ゲームの達人」っていう英文学の小説を、かの「宇宙戦争」「火星人来襲」の名優オーソン・ウェルズが名調子で吹き込んだテープを英会話教材として紙面販売してたのさ。コレはやがて同じスティーブン・キングの「家出のドリッピー」の教材の広告になるんだが、それも確か演じたのはオーソン・ウェルズで、「ゲームの達人」のカセットもまだ売っていた。
何でも、オーソン・ウェルズはかつて、「火星人来襲」のラジオドラマをラジオドラマと言わずに語り始め、全米中の人々を宇宙人パニックで恐慌に陥れた事があるらしい。その語りが説得力あり過ぎるから引き起こした事件とか。
詳しくはネットで
※先にスティーブン・キングの名前を出したので混乱する人がいるといけない。一応註釈しとく。
「火星人来襲」と「宇宙戦争」は、いずれもH・G・ウェールズというSF作家先生の作品で、最も有名な作品は「タイムマシーン」であろう。どれもこれも映画として実写化されてる大作家だ。
ガキの俺はこのカセットテープが欲しくってな。まぁ、ガキの俺は定期的な小遣いすら貰ってなかったし、家の手伝い賃程度ではちょっと無理だったが。
それぐらい高く感じた。
とにかくこの頃だ。俺は物語に目覚めた。他はうろ覚えでも、それだけは確かだ。
そして作家に憧れた俺は、手塚治虫に憧れ、星新一に傾倒し
ショートショートを書き倒した。(……当時は一人称「僕」だったが。)あちこちに作品を送り初めることにした。だが、いきなりオリジナル小説はハードルが高い。
そこで、図書館の本からストーリーをパクってあらすじ形式で、わ書き写す事にした。最初の作品をどれにするかはかなり迷った。
最初だから、つまらない作品から書いてみようと思った。
そこで、読んでみてガキの頭でよく分からなかったSF作品を題材にする事にした。それが、「遺された人々」と言う地球の未来を描いたSF作品だった。
しかし、同じ書くでもそのまま書いたんじゃつまらない。オリキャラも出しオリジナル展開も入れた。空中で泳ぐ描写も入れた。オリジナルのセリフも結構書いた。しかし、それはあくまでも小説ではない。終わってみればそれは、TVシリーズ1年分の各話あらすじだった。
だからそういう意味では、俺は原作者足り得ない。精々が原案者だ。とはいえ、ストーリーラインすべてと重要なセリフはすべて書いたが。その作品の名前は、「未来少年コナン」。
ペンネームは……当時難しいけど辞書を片手に苦労して読んでいたH・R・R・トールキンの指輪物語に出てきた日本語訳文の馳夫さんから取った。これは登場人物の1人、アラゴルンのあだ名だ。
当時これ全く読めなかったし、今でも全く読めてない。たぶんハセオさんだと思う。
苗字は適当に付けて、宮崎駿。
たぶん当時、ズームイン朝に宮崎さんていう女子アナがいたからじゃないかと思ってる。
コレ見て、エーッ!?
全く違う漢字じゃんと言う方、よく見てください。
一応、似てるでしょ?鼻ったれで頭が朦朧としてるガキが、漢字辞書を手に、コレかな?と散々探し回ったけど見つかったのがコレだったんだよね。比較したけど同じに見えた。
散々苦労して見つけたのがコレで、細かい字を見すぎて目も疲れて嫌になって、えーい!めんどいからコレでいいやと決めたのが実情。
そして俺はこの作品を封筒で「宮崎駿」名義で某アニメ会社に送ったわけよ。わら半紙に1枚、もしくは2枚程度だったかな?画用紙だったかもしれん。そこは記憶薄い。
結果を見る前に、最初から自分で不採用と決めつけてたのは確かだ。こんなつまらんものは採用されるわけないって理屈。
そこですぐ次の作品に取り掛かった。封筒を出した当日の事だ。
当時の俺はつまらない作品から徐々に慣れていって、面白いものを書けるようになってってやると決めていたので、次も当然、つまらない作品を書こうと思った。
大人が好きそうな、つまらないタメになる話にしよう。
そうだ!これはあくまで練習なんだから世界の名作全集なんかいいんじゃないか?……読むの難しいし、確実につまらないし!
そこで「世界名作劇場」の企画を書いて送る事にした。
モデルとしたのは、当時好きだったTVアニメ「漫画アンデルセン物語」だった。まぁ、これはそこそこ面白かったんだけどな。EDのズッコの唄が好きだった。ズッコの声優がデビュー間もなくの野沢雅子さんね。
先に送った「未来少年コナン」がTV全話あらすじ集だったので、それと同じテイストで書くことにした。それは最初からシリーズモノにしようと決めていた。なぜかは知らん。当時の俺の脳味噌に聞いてみたい。その栄えある第一作に選んだのは図書館でよく読んでいたトーベ・ヤンソンのムーミン。
採用されないのが前提だったのに、つい面白い原作を選んでしまったのに気付いたのだが、中途半端に採用されたら作者に迷惑だなと子供心に思った。
これなら採用されんだろうとヒロインの名前をフローレンからノンノンに変えてみた。それに日本人ならフローレンよりノンノンのが馴染みだろうなと思った。(……今考えると、実は採用されたがってたのかな)
それ以後のシリーズはめんどいのでオリジナル要素は皆無。適当にセレクトした名作を一冊一冊図書館で借りて、TVシリーズ1年分位の各話あらすじ集として書き写し、1作品わら半紙1枚として出来上がるたび封筒で送った。つまり、かれこれ十を超えるシリーズ作品のあらすじを送った訳ね。主要なセリフ付き。
ちなみに、「ピーターパンの冒険」は違う。あれは「世界名作劇場」を書いたのが自分だと言うことを辛うじて思い出した俺が、シリーズを終わらせるのがつらくて無銘掲示板にネット小説として書いたものだ。言わば二次創作のつもりで書いたものだ。それ以後のシリーズもあるならば、それは俺がネットに書いたものに他ならない。
その後、俺は図書館で見つけた本から同じく「ガンバの冒険」や「アンデス娼年ペペロの冒険」をアニメ会社に送りまくった。
これらはすべて「宮崎駿」名義。
そして、「未来少年コナン」のあらすじ送った時に思い付いた空を泳ぐ動作から、空中で服を脱ぐ事を思い付いたわけよ。
それを洋画のベットシーンに結びつけたのが、いわゆる「ルパンダイブ」だ。その頃俺はアルセーヌ・ルパン大全集を読み始めたばかりだったので、すぐそこへと結びつけた。実はそれが、俺がモンキーパンチ名義で送った「ルパン三世」な。この頃にはもう書くことになれていたのでそれなりに小説形態に近い文体で書いた。まさかその後これがそのまんま漫画化されるとは思ってもみなかったよ。我が文章ながら、子供心につまらなかったし。
江戸川乱歩の明智小五郎シリーズとかと比較するとちょっとね。
ジブリについては、別に話そう。
その後も俺は色々とアニメ会社や漫画雑誌に送り付けた訳だが、それが採用される事はなかった。
採用されてたら自信も付いてたしプロになってたかもな。そしたら逆にここまで大量の作品は書いてなかったかもしれない。
ちょっと長すぎたので、今回はここまで。
俺が書いて送った、俺名義で無くなった作品はまだまだ沢山ある。
わりと冗談を抜きにして、俺が作品を送り続けなければ別の世界があったはずだ。
それは俺にとっては退屈だが、幸せかつ平穏な世界だったかもしれない。
そうだな……次は、宇宙戦艦の話でもしようか。