三木聡監督の伝説の作品『亀は意外と速く泳ぐ』が、まさかの20年振りの上映、しかもデジタルリマスター(笑)ということで上京ついでにテアトル新宿へ。

20年振りというのも驚くが、配信でも観られない幻の作品になっているというのにさらに驚く(普通に10年前はレンタルDVDで観ていた)。

 

自分の価値観に大きな影響を与えたオールタイムベスト級の作品なので、めちゃくちゃ楽しみにしていたのだが、昔はあんなに面白かったのに、今見ると意外と笑えないところが多くてちょっとショックを受けた。

 

三木作品はこれ以降『転々』以外は面白くなくなったと思っていたが、単に自分の感性が変わっただけかもしれない。

本作も、もし今回が初見だったら、ハマらなかった可能性も大きい。とはいえ、テアトル新宿は結構な客の入りで同好のファンが多いことにびっくりしつつも嬉しくなる。

 

久々に観て驚いたのは、意外とストーリーがあることだ。前回観た時はストーリーの回収がイマイチという感想だったので、今回は逆の感想を持った。

 

公安とスパイの対決要素とか、主人公がスパイの試験を受けるとか。

 

ファミレスで、誰が何を頼んだかウェイトレスに覚えられないようにする試験で、最後の1人なのに「カレイの煮付け定食の方は…?」とふせえりが覚えられてないのは笑えた。

しかも、ファミレスといいつつ、全然ファミレスじゃないし(笑)

 

監督もどこかに書いていたが、「もし本当にスパイがいるとしたら、気づかれないように平凡に暮らしているはず」というテーマで観るとより面白い。出てくる人物は大体スパイか公安の協力者だし、何してるかわからない人って世間には結構いるが、意外とそうなのかもとか思ったり。

 

スパイ役の岩松了がソ連のTシャツをずっと着ているが、さすがにロシアのスパイだったらバレバレだから違うだろう。手羽先ナチスは今ならできないネタかも。

 

上野樹里と蒼井優は当然だが、2人ともまだ若い。特に上野樹里は垢抜けてはいないが、とても可愛い。当時はまったく気づかなかった。

 

『亀は意外と速く泳ぐ』というタイトルは主人公スズメのことだと今さら気づいた。大人しそうな平凡な主婦もやる時はやる(=停電を起こしてスパイ仲間を救う)ということ。

 

でも、23歳で専業主婦というのは、若いと思ってしまうが、当時はまだそれが違和感のない時代だったのだろう。20年でも時代は変わる。

 

『転々』の吉高由里子もそうだが、三木映画のヒロインは非常に魅力的だ。上野樹里の映画と言ってもよい。

 

結末として、スズメは憧れの先輩(要潤)の子どもが川に流されているところを助けた結果、世間の注目を浴び、他のスパイ仲間と一緒には行けなくなってしまう。

 

音楽は大滝詠一の娘婿である坂口修。シティボーイズの選曲を担当していたことは、舞台のサウンドトラックのライナーノーツで知っていたが、映画音楽もやっていたとは。

だから、『イン・ザ・プール』の主題歌は「ナイアガラ・ムーン」だったのか?

 

とにもかくにも、発見が多い鑑賞だったが、オールタイムベストを公言している『転々』も今観たら、つまらなかったらどうしよう(笑)

 

さて、せっかくなので、次回は上野樹里特集上映を組んでみようかな。