★★★★☆

 

引退宣言を撤回したフィンランドの巨匠アキ・カウリスマキ監督の6年振りの新作を観た。彼の作品は、『過去のない男』(2002)、『ル・アーヴルの靴みがき』(2011)以来、3本目(といっても『過去のない男』は昔、チラッとテレビで観た程度(だが、面白かった))。

 

タイトルの『枯れ葉』はシャンソンのあの曲からで、エンドロールで流れる。

 

冒頭はウクライナの戦況を伝えるラジオから始まる。映画の随所で戦争でのウクライナの被害を伝えるラジオが挿入される。おそらく、ウクライナ戦争も新作を発表するきっかけになっているのだろう。

 

主な登場人物は、スーパーで働くアンサ(女)と工場で働くホラッパ(男)の二人。

 

同僚からカラオケに誘われたホラッパは、「タフな男は唄わない」と答える。まるで映画のタイトルみたいだ(カラオケはフィンランドでも本当に“カラオケ”と発音するようだ)。

 

同僚の男は歌に自信があるようで、朗々と歌い上げるが、外国語だとそれが上手いのか下手なのかよくわからない(歌っている曲も知らない曲だし)。上手いと思わせておいて、実は下手だったというギャグかと一瞬思ってしまった。

 

ここで、ホラッパとアンサが初めて出会うが、ここでは何も起こらない。

次に、酔っぱらったホラッパがトラムの駅で、若者たちに財布を取られようとしているところにアンサが遭遇する。結局、ホラッパは一文無しだったので、若者たちは去っていくが、アンサが寝ているホラッパを起こそうとしても、彼は目を覚まさない。アンサはホラッパを置いて、トラムに乗り込むが、トラムが停留所を出発するとすぐにホラッパは目を覚ます(気づいていたのか?)。

 

その後、どこかでまた二人は出会うのだが、忘れてしまった。アンサが再就職したバーの客と店員としてだったか?(ちなみにその店はオーナーが薬物売買で捕まってしまい、アンサは給料をもらう前に店がなくなってしまう)。

 

アンサはもともと働いていたスーパーで、賞味期限切れの売り物を1個持ち帰ろうとしているところを見つかってしまい、クビになっている(海外って本当にすぐに解雇されるんだね)。

 

ホラッパは工場で働く労働者だが、アル中で仕事中にも酒を飲んでいる。ある日、仕事中にケガをするが、アルコールチェックで引っ掛かり、クビになる(次の職場でも勤務中の飲酒でクビになる)。

 

初デートで二人はゾンビ映画を観に行くのだが、映画を観終わった後、他の観客が「『田舎司祭の日記』の方がよかった」「『ゴダールのはなればなれ』の方がよかった」と言っていた。

 

アンサはホラッパに、名前は今度教えると言って、電話番号の書いたメモを渡す。しかし、ホラッパはポケットに入れたそのメモを落としてしまう。ちょうどこの日、自分もポケットに入れたはずの映画の割引チケットをなくしていたので、不思議な偶然を感じた。

 

ホラッパはアンサの家に招かれ、食事をご馳走になるが、少量の食前酒に満足できず(ホラッパは「アペリティフ」という言葉さえ知らなかった。ちなみに私は、中原めいこの『君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。』を聴いたことがあったので知っていた)、隠し持っていた酒を飲んだことから、アンサに「アル中は御免よ」と拒絶される。

 

その後、しばらく経って、ホラッパは思い立つと、酒をすべて捨てて、アンサに謝罪の電話を入れる。だが、赦されてアンサの家に向かう途中、トラムに轢かれて意識不明となる。

ホラッパがトラムに轢かれたことを知らないアンサは、後日、公園ですれ違った(ホラッパの元同僚の)カラオケ好きの男に彼が意識不明で入院していることを教えられる。

 

病院に付いたアンサは、受付で面会を申し出るが、彼女はホラッパの下の名前を知らないことに気づく。

 

受付「下の名前は?」

アンサ「知らないわ」

受付「親戚の方ですか?」

アンサ「妹よ」

受付「・・・」

アンサ「信仰上の」

 

こうして(なぜか?)、アンサは病室に入ることができるのだが、妹だったら下の名前を知らないのはおかしいし、なぜ親戚だということにしておかなかったのかなど、突っ込みどころ満載で笑える。

 

アンサは、看護師から意識が戻るかもしれないから、なんでもいいので話しかけてみてくださいと言われ、病院においてある雑誌の記事を読むのだが、ゴシップ雑誌だったため、読み上げる内容が「修士、恋人を食べる。死体はバラバラにして冷蔵庫に」というようなものばかりになってしまい、不謹慎だが、場違いで笑える。

 

その後、退院したホラッパをアンサは犬を連れて迎えに行く(再就職した工場に住み着いた犬を引き取ったのだ)。

 

ホラッパ「犬の名前は?」

アンサ「あるわ。(すぐ答えないところがまたいい)チャップリン」

 

カウリスマキの映画は、静かに物語が展開するのだが、とにかく随所で笑える台詞が出てくるところが、面白い。たとえば『過去のない男』では、「昨日、月に行ってきたんだ」「宇宙人にはあった?」「いや、誰もいなかった。日曜日だったから」という具合(記憶をもとに書いているので、正確ではないが、こんな感じ。QもAもズレている)。

 

今回も、ホラッパがアル中だとわかった後で、アンサが女友達と話す会話が面白い。

 

「どうして男ってみんなそうなの?」と嘆くアンサに対して、女友達はこう言う。「男なんてみんな同じ型の鋳物よ・・・しかも、壊れてる」

さらに続けて、アンサが「男なんてブタよ」と言うと、女友達は「違うわ。ブタはやさしくて賢いもの」と言う。

 

劇中の女性2人組の歌がよい。パンフレットに載っていた『竹田の子守唄』がどこで流れていたかはわからなかった。パンフレットも凝っている。