5階の病室からは最近完成した新しい岐阜駅が見えた。
高山線だろうか、東へ走る車両が出ていった
窓のカーテンを閉めたひろ美は、孝彦のベッドの横の椅子に掛けた。
額の汗をバッグの中から出した自分のハンカチで拭った。
痛み止めが効いているのか苦しそうには見えない。
点滴の針の刺さった左手にそっと触れてみた
薬指に指輪がないのね 外して大事にしまってあるのかしら
仲の良い夫婦だったに違いないもの
彼は死んだ妻をずっと愛している筈だ
それなのに、ひろ美、あなたは彼に何を求めているの
ひろ美は自問自答した。
暫く彼の寝顔を見つめていたが、突然の事で疲れの出たひろ美は
その場で眠り込んでしまった。
看護師が点滴の薬の交換に来た物音で目が覚めた。
あわてて握っていた孝彦の手を離した。
孝彦も目を覚ました。何かとても驚いた表情をしている。
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