〈低線量被曝〉最も危険な年齢区分は〝8〜16歳〟——ETV特集「ウクライナは訴える」 | Down to the river......

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「〈低線量被曝〉最も危険な年齢区分は〝8~16歳〟」。

刺激的なタイトルですが、残念ながら特に誇張している表現ではありません。

この年齢は、日本では「小学生~高校低学年」の範囲にあたります。

これは、チェルノブイリ事故から25周年の2011年に発表された「ウクライナ政府(緊急事態省)報告書 (Twenty-five Years after Chernobyl Accident: Safety for the Future - National Report of Ukraine)」(別名〝ウクライナ・ナショナル・レポート〟)で報告されている事実そのものです。

次のリンク先から一部日本語訳をした「PDF書類」がダウンロード出来きます。




http://archives.shiminkagaku.org/archives/csijnewsletter_010_ukuraine_01.pdf


 このように、チェルノブイリ事故に遭ったグループにおける電離放射線の影響は、被曝時の年齢というファクターによって有意に変化し、長期の病理学的条件の発病率と有病率のデータ解析に基づくと、 もっとも危険な年齢区分は小児早期(訳者注:本事例では 4‐7 歳を指す)ではなく、8-12 歳および思春期(12 -15,16 歳)ということが証明された。




この「ウクライナ政府報告書」の存在を知ったのは、2012年9月23日(日)夜10時から NHK で放送された〝【ETV特集】シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告「第2回 ウクライナは訴える」〟というドキュメンタリー番組です。

毎週金曜日の首相官邸前抗議行動に、「ふくしま集団疎開裁判」の原告と支援者の方が毎週福島から来ていて、その方々のスピーチの中でこの番組の内容について言及があり、「是非観て欲しい。そして福島の子供達がいかに悲惨な状況の中で暮らしているのか理解して欲しい」と訴えていました。

ETV特集はこのブログでも度々ご紹介するほど質の高い番組なので、そこで早速拝見してみたのですが、そこで報告されている「低線量被曝による健康被害」の実態は、まさしく「衝撃的」な内容ばかりでした。

今までの僕の知識では、低線量被曝による健康被害のリスクは「年齢が若くなるほど高くなる」というもので、これは既に今の日本人の常識的な一般認識となっているのではないでしょうか。

しかし、チェルノブイリ事故から26年が経ったウクライナでの放射線被曝に因るとみられる健康被害の実態は、それとは違う結果なのです。

その上、原発事故以降に生まれた子供達でも、何らかの健康被害(慢性疾患等)が26年経った現在も増加傾向にあるとのこと。

このエントリーを書いている最中も、とても憂鬱な気分になってしまうほどの衝撃さです。

というのは、ウクライナの強制避難の基準は「年間 5mSv 超」なのです。

つまり、現在健康被害が増加しているのは「年間 5mSv 以下」の汚染地帯に住んでいる住民なのです。

翻って現在の日本の避難基準は「年間 20mSv 超」とウクライナの4倍です!

被爆線量に比例して健康被害が出ると単純に考えると、日本は将来長期的にウクライナの4倍の数の健康被害が発生すると予測出来る訳です。

憂鬱になります……。

特に福島の汚染地帯(年間 20mSv 以下)に現在も住んでいる子供達の健康被害が、大変心配です。

この事実をどう捉えるか各自で判断してもらうしかありませんが、現在の日本の安全基準は「かなり甘い」としか表現出来ないと思います。





去年4月、チェルノブイリ原発事故25周年の会議で、ウクライナ政府は、汚染地帯の住民に深刻な健康被害が生じていることを明らかにし世界に衝撃を与えた。
チェルノブイリ原発が立地するウクライナでは、強制避難区域の外側、年間被ばく線量が5ミリシーベルト以下とされる汚染地帯に、事故以来26年間、500万人ともいわれる人々が住み続けている。
公表された「Safety for the future未来のための安全」と題されたウクライナ政府報告書には、そうした汚染地帯でこれまで国際機関が放射線の影響を認めてこなかった心臓疾患や膠(こう)原病など、さまざまな病気が多発していると書かれている。
特に心筋梗塞や狭心症など心臓や血管の病気が増加していると指摘。子供たちの健康悪化も深刻で2008年のデータでは事故後に生まれた子供たちの78%が慢性疾患を持っていたという。報告書は事故以来蓄積された住民のデータをもとに、汚染地帯での健康悪化が放射線の影響だと主張、国際社会に支援を求めている。

今年4月、私たちは汚染地帯のひとつ、原発から140キロにある人口6万5千人のコロステン市を取材した。この町で半世紀近く住民の健康を見続けてきた医師ザイエツさんは、事故後、目に見えて心臓病の患者が増えたことを実感してきたという。その原因は、食べ物による内部被ばくにあるのではないかとザイエツさんは考えている。予算が足りず除染が十分に行えなかったため、住民は汚染されたままの自家菜園で野菜などを栽培し続け食べてきた。また汚染レベルの高い森のキノコやイチゴを採取して食用にしている。
学校の給食は放射線を計った安全な食材を使っている。しかし子供たちの体調は驚くほど悪化。血圧が高く意識を失って救急車で運ばれる子供が多い日で3人はいるという。慢性の気管支炎、原因不明のめまいなど、体調がすぐれない子供が多いため体育の授業をまともに行うことができず、家で試験勉強をして体調を崩すという理由から中学2年までのテストが廃止された。
被ばく線量の詳細なデータはなく、放射線の影響を証明することは難しいが、ウクライナの汚染地帯で確かに人々は深刻な健康障害に苦しみ、将来に不安を抱えながら暮らしていた。

しかしIAEAをはじめとする国際機関は、栄養状態の悪化やストレスなども原因として考えられるとしてウクライナの主張を認めていない。放射線の影響を科学的に証明するには被ばくしていない集団と比較しなければならないが、住民の被ばくに関するデータも、被ばくしていない集団のデータも十分ではなく、今後も証明は困難が予想される。

国際社会に支援を訴えながら、放射線の影響とは認められていないウクライナの健康被害。チェルノブイリ原発事故から26年たった現地を取材し、地元の医師や研究者にインタビュー、ウクライナ政府報告書が訴える健康被害の実態をリポートする。





【ETV特集】シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告「第2回 ウクライナは訴える」





医学に関してど素人ですので、何と言っていいのか分かりませんが、番組の最後でウクライナの医師が発言した言葉が、低線量被曝に対する「教訓」なのではないか、と思います。


「私たちの失敗を繰り返して欲しくはありません。

いくら注意しても、しずぎるということはないのです」。





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武田邦彦」中部大学教授もこの番組をご視聴したらしく、番組内容の補足として「予防原則」について言及しております。




NHK教育チャンネルが2012年9月に報道したチェルノブイリ(2)は、被曝地ベルラーシ(引用者注:ウクライナの間違い)の医師達の診察と治療を中心とした構成でした。多くの人が映像を見たと思われますが、低線量の被曝によって20年後になっても甲状腺ガン、免疫不全などの多くの病気で苦しんでおられることが分かります。

これに対して診察を担当した医師達は「国(ソ連政府)が1年5ミリまでの被曝は安全だ」と言ったことを信じたことが悔やまれる」と述懐していました。もともと学問的に分かっていることは少なく、人間は間違いばかりをしてきたのです。大勢の人が被曝したのは広島・長崎が最初で、チェルノブイリが2番目ですから、被曝と健康に関する私たちの知識はとても少ないのです。

ところでこの番組はNHKとしては珍しく中立的な放送をしたのですが、放送全体にわたってもっとも重要な点が不足していました。それが「予防原則」です(放送しなかったのは故意ではなく、知識不足と考えられます)。

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私たちの科学は人類に良いこともしてきましたが、同時に取り返しのつかない災厄ももたらしました。その一つが「科学の産物による病気」です。その典型が「水俣病」や「四日市ぜんそく」でした。このブログでも何回かこの2つの事件を執筆しましたが、二つとも「当時の科学では意外な結果」でした。

水俣病は水銀がサカナの体の中で有機水銀に変わり、それが人間の脳神経を冒した事件で、小さい子供さんなど1万人を超える方が犠牲になりました。また四日市では煙突からの亜硫酸ガス(二酸化硫黄)がぜんそくをもたらし、これも大勢の人の幸福な人生を奪ったのです。

水俣病が「水俣病」という名前を冠しているように、「水銀が毒物とはつゆ知らなかった」というのが事実であり、四日市ぜんそくは亜硫酸ガスの毒性が知られていなかったので「工場の近くの方が便利だ」と考えて工場の付近に住んだことが原因になりました。

このような経験を積んで、1992年に「予防原則」というのが国際的に合意されます。日本も環境大臣(当時の環境庁長官)が出席しています。それは画期的なものでした。

「原則15:環境を防御するため各国はその能力に応じて予防的方策を広く講じなければならない。重大あるいは取り返しのつかない損害の恐れがあるところでは、十分な科学的確実性がないことを、環境悪化を防ぐ費用対効果の高い対策を引き伸ばす理由にしてはならない。」(RIO DE JANEIRO DECLARATION 1992)

「過ちを改めるに憚ること無かれ」と言いますが、この宣言は素晴らしいものです。私たちの科学が冒した今までの過ちを反省し、その本質的な欠陥を補う知恵だったのです。国際的な文章で少しややこしいので解説をします。

1) 環境を守ると一言で言っても、その国に発展度合いに応じて現実にできることが決まっているので、その国の力に合わせて予防的措置をすること、
2) 損害が「重大かつ取り返しのつかない恐れ」がある場合は、「充分な科学的確実性を求めてはいけない」、特に「費用がかかるから」ということを理由にしてはならない。

事故以来、私は1)に関して、原子力予算が4500億円あり、東北の汚染された食材を買い上げても700億円にしかならない。また本格的な除染に2000億円を要するが、これも原子力予算の範囲でできる。また震災復興に20兆円を使うことができる経済力を持っている、と言い続けてきました。

また「経済が良くならないと環境は良くならない。だから景気を良くしておくことが環境にも大切だ」と言い続けてきました。これは私の意見ではなく、この文章に見られるように世界的な認識なのです。それに基づいて2011年4月から5月の国会の委員会では「日本は国力があるから、本格的な除染をして綺麗な福島を取り戻せる」と主張しましたが、受け入れられませんでした。

また、今回のNHKの放送では2)が完全に無視されていました。つまり、放送の終わりの方で長崎大学の教授が「低線量の被曝と健康については学問的に確定していない」と発言し、その発言に対して「予防原則」を締結し、指示してきた環境省が同席していながらまったく解説を加えないのです。

日本が守ってきた「予防原則」は「十分な科学的確実性がないことを、策を引き伸ばす理由にしてはならない」と明確に言っているのに、環境省が主催した会議で「学問的に確定していないから対策を取らない」としたのですから、これほど明確なダブルスタンダードはありません。

自らの学問や職業にプライドを持つということは、「自分が不利な場面でも、学問的な結果を優先すること」であり、決して「知らない素人を騙す」ということではありません。

科学がもたらした悲惨な事件の多くは「学問的に確定していないから」という理由で「やや危険らしい」というものをやり続けたことにあるからです。水俣病も「怪しい」という時点で工場を止めていれば可哀想な人が大幅に減ったのですが、「学問的に確実」ということが分かるまでに10年を経て、その間に多くの犠牲者を出したのです。

「低線量被曝と健康障害」はまさに「怪しい」と疑わしいものであり、「重大かつ取り返しのつかない損害」がでる可能性のあるものです。だから、1)医師および医師会は健康に関する国際的合意を尊重すること、2)環境省はダブルスタンダードを使わないこと、3)NHKは予防原則を良く知っているのだから、番組では必ず触れること、を求めたいと思います。

「科学的に確実ではないことを理由にしてはいけない」というこの明確な予防原則は、ベルラーシ(引用者注:ウクライナの間違い)で疾病が増大しているという事実だけで、私たちは子供達の被曝を絶対に1年1ミリ以内におさめないといけないと思います。また、日本のように教育程度が高い国が、「ご都合」によって予防原則を適応したり、無視したりするのは残念です。

やや難解な文章ですが、予防原則15を繰り返し読み、それと現在の被爆対策とを比べて、特に医師、科学者、技術者がもっと積極的な行動に出ることによって、これまで科学がもたらした災厄を少しでもカバーしなければならないと思います。

(平成24年9月26日)


《引用元》
武田邦彦 HP の「放射線と被曝の教室(6) 予防原則と被曝」より。




【465】 放射線と被曝の教室 (6) 予防原則と被曝 / 武田 邦彦





科学的に因果関係を証明出来ないことをもってそれを排除するのは、刑事裁判の「推定無罪(疑わしきは罰せず)」の原則に似ていて、大変違和感を感じます。

安全(予防)対策は、その一面では「保険」のようなものであるべきです。

100%予測出来なくても、ある程度の確率で予測出来る範囲内の事態に対して対処出来るように準備するのが「保険」です。

つまり、判断基準は因果関係ではなく「相関関係」だけで十分だと思います。

別の表現で言い換えると、「必然性」ではなく将来の「蓋然性」のある事態に準備(対応)するのが肝要なはずです。

それが合理的な考え方(妥当性)だと思うのですが……。

日本のエリート層(政治家、官僚、学者等)は一体どういう思考回路なのでしょうか?

科学的「議論のための議論」をしているだけで、現場(現状)に則した、将来の国民の健康・安全のための現実的な議論がなされていないように感じます。



最後に「おまけ」として、福島の子供に甲状腺ガンが見つかったことに関する、武田邦彦先生の解説動画をご紹介します。




福島の子供の甲状腺ガン : 武田邦彦