なぜ生きる/明橋 大二
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著名な博士が禁酒運動で、ある町へ遊説した。


三度の飯より酒大好き男が、

こんなおいしいものを排斥するとは何ごとかと、

息巻いて会場へ乗り込んだが、

聞くほどに知るほどに、納得せざるをえない説得に、

翻然と改悛しキッパリ断酒を決意した。


終了後すぐに博士をたずねて、一部始終を打ちあけ、

「ぜひ禁酒記念に、ご揮毫を」と懇願する。

「なんと書こうか」


死ぬまで禁酒と、いかがでしょう」


死ぬまででは大変だろう今日一日で、どうかな」。


花も実もある博士の言葉に感激した男は、

思わず身を乗り出して確認する。


「今日一日でいいんですか」


「さよう。今日一日でよいのだよ」


“今日一日禁酒”の紙を部屋の壁に貼りつけた男は、

時計とにらめっこしながら、明日の来るのをひたすら待った。


夜になり十二時が近づくと、一升ビンをぐいと引き寄せ、

ノドをグーグーうならせる。


十二時の時計を合図に「さあ、のむぞ」と、

酒を手にした男が壁を見て、


「あっ、今日もまた禁酒か」と叫んでガックリする。


「今日一日」とは、死ぬまでのことだったのか。


「今日」の真意を知った男は死ぬまで酒を断ったという。

「今年」が終われば、また「今年」である。

「今日」が終われば、また「今日」だ。


悠久の過去といっても永遠の未来といっても、

今、今、……と「いま」の連続である。


永遠の過去も未来も今におさまるから、

古来「永遠の今」ともいわれる。



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今日一日を大切にできないと、

きっと、自分の人生を大切にできない。


どんな病の患者さんも、

終末期の方も、

今を必死に生きておられる。


「もう手遅れだから」と、変えられない過去を言い訳にせず、

「もうすぐ消える命だから」と、勝手に未来に先走らず、

「今」生きているその命に向き合うことが医療だと思う。



とはいえ、自分の生活を振り返ってみても、

勉強、掃除、などなど、

「また明日でいいや」

と、何度逃げてきたことやら。


また、

刹那的な生き方はもちろん嫌だが、

大局ばかりに気を取られて、

足元がお留守になっても残念。


大きな志は立てたものの、

今日一日の自分の言動を振り返ってみたときに、

どれだけのことが出来たのだろうか、と反省するのも怖い・・・。


具体的な決意とは、「今」どうするかを決めること。

肚をくくるとは、「今」から動き出すこと。


まだ一人前の医者となるには、時間がかかるけれど、

今の自分にできることを探していきたいです。








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