本書は、幕末動乱の時代相とともに、独自の語り口で書かれた歴史随筆集です。随筆といっても小説と同じく物語性やテーマがあり、それぞれに、充分、読み応えがありました。
この書籍を手に取ったのは、綾瀬はるか主演の映画『ICHI 』を観たのがきっかけです。本書には、原作となる「座頭市物語」が収録されています。座頭市といえば、むしろ勝新太郎を想起する人の方が多いのではないでしょうか。
『座頭市』は、前科持ちで盲目の侠客である座頭の市が、諸国を旅しながら驚異的な抜刀術で悪人と対峙するアクション時代劇です。1962年に映画化されて以来、多くの監督により作品化されています。
本書に収録されている座頭市物語は、「天保の頃、下総飯岡の石渡助五郎のところに座頭市という盲目の子分がいた。」という文章から始まります。
天保(1830年〜1844年)の頃、つまり江戸時代、下総の国飯岡(現在の千葉県旭市飯岡)の石渡助五郎(日本の侠客、房総半島の大親分)のところにいた座頭(盲人の職位)の市(主人公)についての短編です。
座頭市は、実在した阿部常衛門という人物がモデルとなっているようです。常陸の国笠間(現在の茨城県笠間市)の生まれ。座頭市物語発祥の地は、千葉県旭市横根(飯岡近くの地名)。座頭市の墓は、福島県会津若松市の井上浄光寺にある。
この歴史随筆は、生き方を大テーマに夫婦の在り方も絶妙に描かれており、非常に魅力的な物語でした。