そんなこんなで夜も遅い時間に入る頃、ヒデトに対する怒りやら何やらでロクに寝られず ほぼ一睡も出来てない状態で仕事場へ向かう




ホナミは夕方からの勤務(遅番)の為既に出掛けているが、その際『私は何とも思ってないから』と言って出掛けて行った


彼女がヒデトの心無い発言で精神的にかなりのダメージを負ってるのは疑いようのない事実ではあるが、この言葉にはもう一つの意味があると思ってて、要は『私は何とも思ってないから決して軽はずみなことはするな』と釘を刺したのだと俺は受け取っている



軽はずみなこと=手を出すってことだけど、俺はガンジーほどじゃないけどそれなりに平和主義者()を自負しているし、自慢にもならないが 気は短いけど自分から手を出したり喧嘩を吹っ掛けたことなど唯の一度もない


高校はそこそこヤンキー高( ※今現在は随分と様変わりして結構なお利口さん学校になってるらしい )だったけど俺自身特にヤンキーでもなかったし




…まあ しょーもない喧嘩自慢とか昔はやんちゃしてたぜ~とか、ちょっとばかし悪かったんだぜ~ワイルドだろ~的なモノほどクソダサいものは無いけど




何だかんだ彼女の心配が杞憂に終わればそれに越したことはないが果たして…










様々な思いが巡る中、ある種の決意を抱いて開店前の店に入ると「昨日の星夜(←俺の源氏名で性夜とも書く)さんヤバかったッスね~」などと後輩らが一応気を遣ってくれたりしたが、俺にはそんな自覚はまるで無かったりする



それでも俺なんかの為に気を遣わせてしまって申し訳ないなあと思っていると、その気を遣わせるきっかけとなった張本人・ヒデトが颯爽と店に入ってきた



昨晩のことがあるけど一応こんなヤツでも先輩なので挨拶はしなければならない



「おはようございます」と形だけの挨拶をするも、ヒデトは一瞥するだけで無言で足早に俺の横を通り過ぎようとする



だが咄嗟にヒデトの肩を掴んで「聞きたいことがあるんですけど…少し良いですか?」と、人の居ないところで話をしようとするも当然ヒデトは「何だよ!何すんだよ!」と手を振り払おうとオーバーリアクション気味に抵抗する



小者らしく無駄に大きな声でそう喚くものだから周囲が少々ザワつき始めるが、そんな抵抗するヒデトを半ば強引にトイレまで連れて行くと「昨日のことなんすけど、彼女に確認しましたよ」と、なるべく穏やかな口調でそう切り出した




一瞬間が空いた後「…何のことだよ!」と必要以上に声を荒げるが、昨日の今日で忘れる訳がない



とぼけるヒデトに徐々に苛立ちを募らせるもグッと堪えて「今から彼女に電話するんで、一言で良いんで彼女に謝ってもらえますか?」と携帯を片手に詰め寄った



無論これはハッタリで、本当にホナミに電話を掛けようとは思っていないし、ただヒデトから謝罪の言葉が欲しいだけ


そもそも彼女はまだ仕事中である



ヒデトが素直に応じないのは億も承知の上でカマしたハッタリではあるが、万一本当に応じるならばそれはそれで構わないし寧ろ大いに歓迎すべきことではある



そしてその時点でこの案件は一応は解決する筈である