広島のやくざに映像化の許諾を求めに行く

 

『セクシー田中さん』の原作者・芦原妃名子さんが急死されたとのこと……。

芦原先生の作品は未読ですが、ドラマも好きだったし、主演の木南晴夏さんも好きな俳優さんだったので(『勇者ヨシヒコ』のムラサキが大好きです)、ちょっとショッキングなニュースでした。

 

作品の映像化について制作サイドとのさまざまな行き違いがあったことをSNSで発信されていましたが、どうして死ななければならなかったのか……。プロレスラーの木村花さんの時のように、芦原先生を攻撃する輩がいたということでしょうか。もちろん、推測でしかありませんが……。

 

『セクシー田中さん』

 

出版社に勤務していた時、わたしも漫画原作の映像化の仕事に携わったことがありました。『セクシー田中さん』のようなメジャー作品ではなく、いわゆる「実話誌」と呼ばれる雑誌に掲載されている“やくざ漫画”の映像化の仕事です。

 

当時はレンタルビデオ業界が隆盛で、ビデオでのみ流通するVシネマ(「Vシネマ」は東映の作品のみの呼称ですが、レンタルビデオ専用の映画作品を指す言葉として使っています)が盛んに制作されていました。Vシネマの視聴者に好まれるジャンルは、極道ものとギャンブルもの。そのため、必然的に実話誌のやくざ漫画の映像化が多くなります。

 

やくざ漫画の映像化で何がいちばんたいへんかというと、現役のやくざの方に映像化の許諾を得なければならないという点です。やくざ漫画に全く架空のフィクション作品というのは少ないのです。多かれ少なかれ、実在のやくざをモデルにしたキャラクターが登場します。そうすると、そのやくざ本人か、故人であればその遺族に映像化の許諾を得ないとならないのです。

 

で、やくざさんというのはなかなか厄介な要求をしてきます。それもこっちに対していじわるをしようとかそういう意識はなくて、純粋に自分が思ったことや要望を言ってくるんですね。例えば、こんな感じです。

 

 

・ワシの役は菅原文太にやってもらおうかのう!

 →いや、文太さんは『仁義なき戦い』で主演してますから……。

 

・大陸(中国東北部、いわゆる満州のこと)で苦労した話もちゃんと映画にしてもらわんとな!

 →Vシネマに海外ロケをする予算はないです。

 

・○○にやられた話やけど、あれはワシが勝っとったっちゅうことにしてもらえんかの?

 →それじゃ史実が変わってしまいます……。

 

・□□はもう破門したんじゃ! 破門したやつを映画で扱うのはやめてくれんか

 →映像化するのは何十年も昔の話ですから……。当時の舎弟さんも登場させないと作品が成り立たないです。

 

・親分の役は渡哲也がいいのう!

 →だから無理だって。渡さんは「西部警察」でしょ。

 

『仁義なき戦い』

 

こういう時のやくざさんって、少年のようなキラキラした瞳でこちらに話しかけてくるんですよね。たまに小指とか薬指がなかったりもしますけど、普通に話をしている分にはみなさんいい人達でした。

 

こうしてひと通りみなさんのご要望を吸い上げてから、菅原文太さんの件や海外ロケの件など、さまざまな部分でご了解をいただいて映像化が実現するんです。何度か繰り返す内に、やくざさん達も「映画(ビデオ映画ですが)は遊び(というか娯楽)」ということを理解してくれるので、その後は仕事がやりやすくなりました。

 

引退してカタギの仕事に就いているやくざさんが「なぜ映画に俺が出てるんだ」なんてクレームをつけてくることもありましたが、ちゃんとお詫びすれば分かっていただけました。だから、どうして芦原先生が命を絶つ選択をしなければならなかったのか……。どうしても分かりません。

 

『セクシー田中さん』のニュースに触れて、思い出したことを書かせていただきました。今日もノーギャンブルで過ごしたいです!