競馬場、場外馬券売り場に生息する人々

 

25歳の時に本格的にギャンブル(競馬)にハマって四半世紀。

いまだに俺は馬券を買い続けている。

まあ、一時(20代後半~40代前半)に比べればずいぶんと落ち着いたけど。

以前は借金して毎週10万円は使ってたからなー。アホだった。

 

今はネット投票が中心だが(しかしネットで馬券購入って本当にタチが悪い。財布の中のお金だけじゃなくて銀行の預金残高全てがタネ銭になるんだから)、ひと昔前までは馬券を買うためには競馬場か場外馬券売り場(WINSとか)に出かけなければならなかった。

現地に出かければ当然そこには、自分と同じ馬券おやじ達がいるわけで。

馬券おやじ以外にも、正体不明の人(というか生物)や、明らかな奇行の持ち主もいた。そんな人たちの思い出をちょっと書いてみる。

 

 

早朝のウインズ後楽園に生息するギャン狂おやじ

 

まだ飯田橋の出版社に勤めていた30代の頃……。

仕事も忙しく「飲み」の予定も多かったので、金曜日の夜は会社の仮眠室に宿泊して、土曜の朝に帰宅するような日々を送っていた。

 

仮眠室を出て、コンビニで「競馬エイト」を購入し、ホテルエドモンドでモーニングを食べながら新聞を読み、ウインズ後楽園に立ち寄ってメインレースの馬券を買って帰る……というのが毎週のルーチンだった。

 

その日の朝もいつも通りウインズ後楽園に出かけたら、ちょうど中山競馬の第1レースが発走したタイミングだった。ダートの1,800m戦だったかな? レースの模様を写すテレビモニターの下には、朝イチから佃煮にするほどの馬券おやじ達が群がっている。

 

馬群が第4コーナーから直線に差し掛かった頃、モニターの下でひとりのオヤジが叫んだ。

 

「蛯名! 蛯名!! お前が勝ってくれたら競艇行かなくていいんだよ! 蛯名ーっ!!!」

 

蛯名とはもちろん蛯名正義現調教師のこと。当時は関東のリーディングジョッキーだった。それにしても、競馬で負けたら競艇で取り返す前提で朝からギャンブルって……。あれは今でも忘れられない光景だった。

 

ちなみにそのレースで蛯名騎手の騎乗馬が勝ったかどうかは忘れた。馬券を買っていないレースのことって本当に覚えてないね。

 

 

ウインズ横浜B舘に生息する妖精さん

 

当時は神奈川県在住だったので、後楽園以外に桜木町にあるウインズ横浜にも足繁く出掛けた。ウインズ横浜はA館とB館に分かれているのだが、俺が通ったのはもっぱら狭いB館の方。A館より人が少なくて落ち着くのだ。

 

そのB館の6階フロア、券売機が並ぶ壁の逆サイドのモニター下の壁際に座り込む、白い長髭のお爺さんがいた。

このお爺さん……、とにかくいつもいる。

そしてずっと座っている。動かない。レースが始まると、床に座ったままの姿勢で目だけをモニターに向けてじっと観戦している。馬券を買っている様子はない。

 

何よりも不思議だったのは、その爺さんに対して誰ひとり干渉しようとしないこと。床への座り込みは本来禁止なのだが、ウインズの係員さんも全く注意しようとしない。他の客もまるで爺さんがそこにいないかのように、一切構っていない。

 

だから、俺は最初、あの爺さんは自分だけに見えている妖精なんじゃないかと思ったほどだ。たぶん、横浜ウインズB館に行ったことがある人なら、一度は見かけたことがあるんじゃないだろうか。

 

埼玉県に引っ越してからは横浜にはまったく行かなくなってしまったが、あの爺さんはまだあの場所にいるんだろうか。というか、そもそもなぜあの壁際に生息していたのだろうか。今でも時々思い出してしまう……。

 

 

東京ドームシティの階段で溶ける人々

 

とある土曜日。その日は秋葉原で仕事があって、俺は珍しくウインズへは行かなかった。

仕事が終わり、タクシーを拾って帰社。秋葉原の神田明神下交差点から飯田橋まで帰るので、当然、外堀通りで水道橋を通り抜ける。時刻はちょうど午後4時半くらい。最終レースが終わったくらいの時間だ。

 

車が東京ドームシティの前を通りかかった時、ドームへ続く階段にはたくさんのおやじ達が座り込んでいた。いや、座り込んでいたというより、溶けていた。まるで三日目の雪だるまのように……。

競馬でさんざんやられて、財布を空にして、顔は脂ぎって、息は絶え絶え……。中には頭を抱え込んでいる人や、足を投げ出して天を仰いだ放心状態のおじさんもいた。いったい幾らやられたんだろう? いま思い出しても、あれはすごい光景だった。

 

ネット投票が中心になった今では、もうあんなに香ばしいおじさん達の姿を見ることはないのだろうか。

 

 

なんとなく思い出したので書いてみたが、競馬場やウインズにはまだまだ不思議な生物がたくさん生息していた。また思い出したら、書いてみる。