最寄り駅まで徒歩1時間?

前回、

の、続き。

 

閉め切られて暑い倉庫の中で、俺たち“派遣”は汗だくになりながら台車を押してピッキングを続けた。棚から棚、もしくは、棚からベルトコンベアまでの移動は常に「全力疾走」。

 

幸い倉庫内の棚は背の低い作りになっているので見通しは利く。出会い頭に台車が衝突するような事故は起こらなかった。というより、作業員を走らせるためにあえて背が低い棚にしたんじゃないだろうかと訝(いぶか)る。棚が低ければ、当然商品の置き場全体の面積は広くなる。ピッキング時の移動距離も増す。走る距離が増せば、疲労度は高くなる。つまり、疲れる。汗は吹き出し続ける。ああ、水が飲みたい……。

 

ただ、ここは海老名のはずれの「僻地」ともいえる場所に建つ倉庫。土地はたっぷりあるようだ。面積が無駄に横に広がっても、地代はたいしたことがないのだろう。

 

 

ようやくの昼休憩。そして午後からまた作業開始。同じことが延々と続く。監督官のマッチョ兄は2階通路から激を飛ばし続ける。

 

「はい、走ってー!」

 

このマッチョ兄、ピッキング作業が遅滞しているとみるや、下へ降りてきて作業に加わる。キャリアが長い分全ての商品の置き場所を把握しているのだろう。まあ、作業が早い早い。棚から棚まで高速で(全力で)移動して、品物を次々と台車の箱に放り込む。

 

暑いから、もちろんマッチョ兄も汗をかく。ただ、むしろその汗をまき散らすかのように、拭うこともせずに高速移動する。そして、作業の遅滞がひと段落したとみるや、また2階通路に上がり激を飛ばす。作業時間中はマッチョ兄も水を飲まない。トイレにも行かない。だからこちらも苦情が言いにくい。(せめてトイレぐらい行かせてくれよ……)

 

午後6時、ようやく作業終了。体はヘトヘト、足はガクガク。これで1日分の報酬は6,500円。もちろん交通費込み。俺が30代だった当時、時給は800~850円くらいが普通だった。ただ、この仕事に関しては明らかに割が合わない。ほとんど肉体労働だもんな。

 

で、ここからがおそろしいところ。

なんと、俺は倉庫に置き去りにされてしまった。

 

ここは海老名市の中でも僻地なので、最寄りの小田急線(相鉄線も乗り入れ)海老名駅までは徒歩約1時間。バス(海老名市は神奈中バス)も通っていない。体力が余ってる時でも歩くのは辛い距離だ。だから、マイクロバスでの送迎が付いている。そのマイクロバスが、俺が着替えをしている間に出発してしまったのだ。つまり、乗車人数の確認もろくに行なっていないということ。

 

“派遣”の俺は勘定に入れてくれないのかよ。

人以下の扱いなのか??

 

送迎バスが行ってしまった後の倉庫で大沢誉志幸ばりに途方に暮れること約30分。残業を終えた数人の正社員のおじさん達が倉庫の2階フロアから下へ降りて来た。ポツンと立っている俺に気づいたおじさんが、「どうした?」と訊いてくれたので、俺は訳を話した。するとおじさん達は口々に、

 

「ひでぇことするなー」

「前にも同じことなかったか?」

 

と、同情してくれた。俺は「戻ってきたバスには乗れるでしょうか?」と尋ねたが、送迎バスは朝と夜に1度ずつしか運行しないとのこと。マジっすか。

 

結局、海老名駅方面の自宅に帰るという方がいらっしゃったので、助手席に便乗させてもらった。いや、助かった。海老名の駅前で車を降りる時には、何度も頭を下げてお礼を言った。(当時はまだビナウォークなんて洒落たものはなくて、駅前はタクシー乗り場とバス停があるだけのただのロータリーだった……)

 

その後、テイケイワークスの社員からは何度も、

「また海老名の現場に入っていただけませんか?」

と連絡があった。どうやらあの倉庫に派遣されたスタッフは二度と行きたがらないので、人が集まらないらしい。そりゃそうだ。

 

あんなにキツい現場で賃金は交通費込みの6,500円、常に全力疾走、業務時間中はトイレに行くのも水を飲むのも禁止(往年のPL学園野球部かよ)、たまに送迎車に置き去りにされる……。誰がまた行くかって。俺もきっぱりと断った。そんなに困ってるならテイケイの社員が自分で行きゃいい。そうすりゃ仕事のキツさが分かるから。

 

というわけで、15年以上が経過した今でもあの時の仕事のことははっきりと覚えている。マッチョ兄の黒のタンクトップと肩の筋肉の盛り上がり具合も……。

 

あれを経験していら、人材派遣会社を間に挟んだ「日雇い」や「スポット派遣」の仕事には絶対に応募しないと決めた。

 

・履歴書不要!

・面接はありません!

・即日お仕事できます!

 

アルバイト情報のサイトを検索すると、こんな文言がいくらでも出てくる。こんなのあやしいから絶対に応募しない方がいい。「面接なし」なんて、こっちを「人間」として扱わないって言っているようなもん。適当に派遣先を斡旋して人件費をピンハネするための「駒」としか見てないってこと。

 

日雇い。スポット派遣。このワードは要注意だと思う。

 

アルバイトは散々経験したので、思い出したらまた書く。

次回は「おーいお茶」、の話。