第12回 『命がけの使者』(2009年 3月22日放送)


【時代劇局長のズバリ感想文】

今日は文句なしに面白かった。謙信が亡くなり、これからは景勝体制で描かれるが、兼続あっての景勝。まさに今回からが、今でも語り継がれる直江兼続物語の本格的なスタートだ。それでは今週の感想文にいきましょう。


①腹が減っては・・・


番組冒頭は、『腹が減っては戦はできぬ』。まさに今回の話の中心になる言葉である。春日山城の本丸を先に押さえた景勝だが、兵糧が尽きてしまい、形勢が逆転してしまった・・・。今回の物語はここからスタートする。良い流れである。森本アナのナレーションの後ろで兼続が美味しそうに食べているシーンも良かった。

②堂々とした兼続


春日山を囲まれてしまった景勝軍。兵糧もあと半月分しかなく、景虎軍は北条とも通じているとの事。足並みが乱れ始めている景勝軍であるが、兼続が心配していたのは、”勝つ事”ではなく、”今後の越後の事”であった。それなら景虎と手を結んだら越後は守られるのでは?と思うが、兼続は『景虎には越後一国を考える気がない!越後を治めるのは景勝様!』とキッパリ!確かに兼続の言う通りだ。この辺りの思い切りの良さ、堂々とモノを言う兼続は良い。今後はこのような兼続をもっとたくさん見たいものだ。

③兄をどう利用する?


そんな中、物語は景虎軍も描かれた。北条家の当主である北条氏政は景虎の兄である。『当然、兄弟であるならば味方に・・・』と、氏政は書状を送ってきたが、それを援軍と称しながら越後に攻め入ってくる兄の策略を見抜いた景虎。景勝と景虎が真の兄弟であったら、これほど力強いものはないのだが・・・。戦国時代においてはこのような騙しあいが当然の如く行われていた。果たして兄を利用するという景虎の策とは?

③勝頼の間抜けっぷり?


武田方の動きが今ドラマで初めて描かれた。これまで高坂弾正は登場したが、武田勝頼は初登場。ご存知!甲斐武田家第20代当主で、母は信玄の側室である諏訪頼重の娘・諏訪御料人である。数々の戦いで武名を上げるも、勝頼では国を治められないと、多くの家臣が武田方を脱したのは有名な話だ。決してバカな武将ではないと思うのだが、今回は勝頼の間抜けっぷりが描かれた印象が強い。義信が生きていたら武田家はどうなっていただろう?と、ついつい”たられば”を考えてしまうが、武田家滅亡まであと3年。今ドラマではスポット的な出演が否めないが、少しでいいので勝頼の人間性がもっと分かるような出し方をして欲しいものだ。

④朝の連ドラ出演者


勝頼の妹・菊姫が登場!後に景勝に嫁入りするが、演じるのは比嘉愛未さん。あのNHK朝の連続テレビ小説『どんど晴れ』で、主人公・浅倉夏美を演じた新進気鋭の女優だ。このドラマの脚本は小松江里子さん。そう!『天地人』の脚本担当である。実は『どんど晴れ』に出演していた俳優が数人このドラマに出演している。ナレーションの宮本信子さん、東幹久さん、あき竹城さん、そして、今回から登場する草笛光子さんだ。ドラマや映画では脚本家の意思で、かつて自身が担当したドラマの出演者が出るケースがあるが、今回は意外に少ない方では?

⑤桑取へ・・・


兵糧が底をつきそうになり、数ある選択肢から景勝は決断を迫られていた。いろんな考えがある中で、『降伏すれば北条を越後に入れずに済む・・・』と景勝が言った事はもっともである。和睦という道もあったかもしれないが、跡目争いであるだけにそれは不可能であっただろう。結局は兼続の考えで、かつて謙信が春日山を守る最後の要に据えた村・桑取に頼る事を決めるが、『おぬしを失のうてまでも生き延びるつもりはないぞ』と、兼続の身を案じる景勝の表情は本当に心配している表情だった。”無口な景勝”なので、演じる北村一輝さんのセリフが少ないが、北村さんは顔で演技出来る数少ない俳優である。今後もその顔で演技する姿が楽しみだ。

⑥融通がきかない?


『3日経って戻らなかった場合は、死んだものと思う』。景勝は兼続は起死回生の賭けに出た。このくだりを原作では、直江信綱が『浅知恵よ』と笑うシーンがあるが、ドラマでなかったのは残念だった。今回は、信綱が兼続とお船に嫉妬するシーンがあったが、それにうまくつながると思ったのだが・・・。でも、お船が兼続を思う気持ちを知ってか?お船に背を向けた信綱は可哀想だった。一方で凄く優しい人だ!と思った。原作では”融通がきかない”と表現されているが、これでは融通がききすぎだ。

⑦分かりやすくが基本?


兼続は桑取に向かう道で、草笛光子さん演じる老婆を助けた。そして、『話し合いに刀は無用』と老婆に刀を預けるが、原作では老婆は登場せず、馬頭観音の石仏の脇に置くという設定になっている。後ろから襲われ、気を失うという話も原作にはなかった。なぜ老婆を登場させたのか?実は老婆が登場した時、『これは桑取の人だな・・・』と感じたが、まさにその通りであった。次に、桑取の長である斎京三郎右衛門に説得にあたるシーンであるが、兼続は主張を理解してもらえず、結局門の外に出されてしまった。ここからどう説得するのか?と思ったが、話は急展開。春日山に兼続が帰ってくるシーンになった。いきなり飛ぶなんて無謀だ!斎京三郎右衛門とのやりとりは?と思ったが、その後すぐに桑取での兼続を紹介していた。老婆は斎京三郎右衛門の母であり、兼続が刀を預けたという話も三郎右衛門にしっかりと伝えられていた。なんだか出来すぎ?と思ったが、分かりやすくするために原作通りではなく、あえて設定を変えたのであろう。原作を愛している人にとっては、原作に則って欲しい!という気持ちがあるが、男っぽい話をするよりは、誰にでも分かる話にした方が視聴者の心をつかみやすい?という考えだったのかもしれない。

⑧景勝と兼続の関係


『お前たちは侍としての誇りを斬り捨てる事になる』。このセリフには、これまで見せた事がない”熱い兼続”が表現されていた。何がどう兼続を変えたのか?あくまでもドラマ上の事なので、兼続の急激な変化には何も言う気がないが、この熱さこそが直江兼続なのかも。来週も、景勝に激しく主張する兼続のシーンがあったが、家臣というよりも、景勝だけには遠慮なく何でも話せる間柄・・・。これが理想だ。

【来週の展望】

御館の乱は3回分描かれるのではないか?と思ったが、4回分いきそうである。予定放送回数が少ないので先を急いだ方がいいのでは?と思ったが、描きたい所は徹底的に描く・・・という 制作者の強い意図が感じ取れた。良いぞ!このままその想いを胸に作ってくれ!