初めに…ピアニスト、フジコ・ヘミングさんのご逝去に対し、哀悼の意を捧げます。
最初にTVで彼女の演奏を聴いた時は、正直に書くとその良さが理解できなかったのですが、初めて生演奏を聴いた時にその音色の美しさに感動し、夫共々ファンになりました。
その時の演奏曲はモーツァルトのピアノ協奏曲とアンコールの『愛の夢 第3番』でしたが、TVやCDでは再現できない、それまでに聴いた誰の音とも違う、同じピアノとは思えないほど美しい音色でした。
彼女の演奏は、長年“完璧な演奏”を聞かせてくれる演奏家を求め続けていた私の価値観を一変させてくれました。
今年の1月の発表会では、私達が行ったコンサートでフジコさんが使用なさったスタインウェイで娘が演奏をする機会に恵まれました。
そのピアノの音色を聴いてコンサートの感動が甦り、次に近くで演奏会があった時は絶対娘を連れて聴きに行こうと夫と話していた矢先でしたので、本当に残念に思います。
まだ娘がピアノを始める前でしたが(生まれる前だったかも)、フジコさんが
「私は子供に教える時は、その子が弾きたい曲しか弾かせないの。
だって、好きな曲を弾く方が楽しいじゃない」
と仰っていたのがとても印象に残っていて、娘がピアノを習う時は絶対に好きな曲を弾かせてくださる先生にしようと決めていました。
ピアノの演奏からはほぼ完全に離れてしまった私ですが、
「ミスを気にするよりも、自分だけの表現、自分が求める美しい音色を。
音楽を楽しみ、音楽を愛する心を大切にしたい」
という彼女の精神は、多少なりとも娘に伝えられたのではないかと思っています。
猫が大好きで、世界中で動物愛護のチャリティコンサートを行なっていらしたフジコさん。
今頃は虹の橋の向こうで沢山の猫たちに迎えられ、笑顔でいらっしゃることと思います。
辛く苦しい歳月を乗り越え、世界中の人々に希望と感動を与えてくださった音色は、多くの人の記憶に残り続けるでしょう。
沢山の素晴らしい演奏をありがとうございました
さて今回は、特別レッスンの記録です。
難航しているコンクール課題曲、『即興曲第15番“エディット・ピアフを讃えて”』(プーランク)を見ていただきました。
遂に曲が掴めた
・フランスものはメロディ中心、ドイツものはハーモニー中心。
バッハやベートーヴェン、ブラームスとは全く作りが違う。
プーランクは、ドビュッシーよりはラヴェルに近いかな?
・出だしはガッチリ入らないでフワッと。1音ずつ浅くペダルを踏み替える
・左のシと右のラがぶつかるのでラは出さない。
右のメロディを引き立てるため左手のメロディも出さない。
メロディと同音の低音はある程度出しても良いがメロディを超えないように。
・「音色感」墨絵のような濃淡。
・この曲は、「歌」。
普通はピアノの曲には書かれないブレス記号(「,」=「V」と同じ)がある。
ブレス記号がある部分はきちんと切って。
・2フレーズ目pp+Lent、どれだけタメられるか。
どれだけ色っぽくできるか、どれだけ素敵に出られるか。
「フランス人作曲家なんて全てにおいて適当で、目の前の女性をどうやって口説くかしか考えてないんだから」私→
左はほとんど聞こえなくて良い。
反発し合うけれど溶け込むように。
あとは細々とした内容なので途中から楽譜への書き込みに変更したため割愛しますが、どれもこれも物凄く的確なご指摘ばかりで、ずっと抱いていた違和感が全て解消されました
修正が必要な箇所があまりにも多く、私はレッスンの途中で
「これ、あと10日で間に合うの…」
と青くなったのですが、最後に通しで弾いた娘が指摘された部分を全て修正してきて超びっくり
(もちろんまだまだ完璧には程遠いですよ〜)
特に最後は本当に素敵な仕上がりになって
今まで一度もなかったのですが、胸がギューっとなって思わず目が潤みました
いい演奏だった…
もう、2度目はないかもしれない。
ありがとう、先生。ありがとう、娘よ。
回る走馬灯…
思い起こしてみれば、娘がレッスン初期から5年くらい習っていたT先生は、娘が小3の時に
「小学生の子はあまり特別レッスンの先生には紹介しないんだけど、〇〇ちゃん(娘)は言われたことにすぐに対応できるから」
と仰って、それからコンクールや発表会の時は特別レッスンを受けられるようにしてくださったのですよね。
娘が師事している先生も指摘は的確で指導法も新しく、娘も着実に伸びていると思うのですが、決して声を荒げるようなことはなく、とても柔らかい雰囲気の優しい先生です。
一方特別レッスンの先生は「真剣勝負」という感じで、先生の熱量が大きく(声量も大きい笑)、演奏技術はもちろん曲や作曲家に関係のある(時にはあまり関係のないw)お話がとても面白くて、1時間の内容が本当に濃く深い
娘の性格をよくご存知のせいなのかダメ出しをされたことはないのですが、他のレギュラーの生徒さん達には結構厳しいことを仰っている場面を何度も目にしています。
だから娘も自然と集中できるし、先生から言われたことを聞き逃さないで吸収し、先生の(歌)声に乗せられてアウトプットすることもできるのでしょうね。
(それに特別レッスンは謝礼が少々お高いので、毎週だとちょっと厳しいDeath…)
前途多難だったレッスン前…
実はYouTubeで誰の演奏を聴いても「この曲をどう弾けばいいのか」がずっとピンと来なくて
(エディット・ピアフやその他の歌手のシャンソンも沢山聴きました)
娘もそうなのではないかと思い聞いてみましたが、案の定私と同じでした。
普段のレッスンでも、何かが違うと思いながらそれが何なのかが分からない。
そんな状況のまま、コンクールまで残り10日になってしまいました…
そんな中で迎えたレッスンだったのですが、いくつも欠けていたジグソーパズルのピースが1時間のレッスンの間に次々と埋められて行くような感覚で
レッスン前半、先生からは
「1番難しい曲を選んじゃったねぇ
技術的には難しくないんだけど、課題曲の中ではこの曲が1番難しいと思うよ。
他の曲(スカルラッティ、モーツァルト、シューマン、チャイコフスキー)と違って、
この曲は細かいところまで全部、“どう弾くか”のセンスが問われる曲だから。
そしてこの“センス”だけは、他人には教えられないんだよね
楽譜には細かいことは何も書いていないけど、この曲は歌=シャンソンだから。
フランス人にとってのシャンソンは日本人にとっての演歌みたいなもので、
フランス人の中では当たり前のように馴染んでいて、説明できるようなものではないんだよ…。
ただ、これは反則だけど、先生の演奏をそのまま真似すれば予選は通過できる。
本選はそれでは無理だけどね」
と言われましたが、本当に仰る通りで…
(娘が弾きたいと言ったのが決定打ではありましたが、私の中では正に「技術的には簡単」という理由でしたから)
そういえば昨年リストの時も「随分難しい曲を選んだねえ」と言われましたね
娘が小さい時から、レッスンの時に必ず
「絶対に先生の真似をしてはダメだよ。
あなたがどう弾きたいのか、あなたの内面を見せて」
とお話をなさってきた先生ですので、この「先生の真似をすれば予選は通過できる」は、勿論「絶対に真似しちゃダメ」、ということです
でも、それを口に出してしまうほど、レッスン開始直後の娘の完成度は低かったというのは分かっています
こんなに途方に暮れて考え込まれた先生、初めて見ましたから
だから、最後に方向性がはっきり決まって心からホッとしました
先生から受験の心配をされる
大学受験の話になって、「建築系を目指すことに決めたので、コンクールのついでに家族旅行を兼ねて近隣の建物を見学してくる」とお話したところ、
「コンクールの予選を通ったら8月まで続くよね
そんなことやってる暇あるの」
とちょっと呆れられ心配されましたが、娘にはどちらも必要なのです…。
「ピアノをやめてしまうと今までのリズムが狂ってしまうので
今まで通り、淡々と練習するだけです」
と説明しておきましたが、無事に合格できたら色々ネタばらしの予定
それと今頃思い出したのですが、このコンクール、昔から近現代曲での予選通過率が異様に低いんだった…
昨年参加した時も現代曲を選んで予選落ち、おまけに無賞だったのに、また同じことを繰り返してしまいました
予選通過できたら嬉しいのですけれど、通過できたら超ラッキー程度の気持ちでいることにします。
本選曲は自由曲で、娘が選んだのはちょうど今年が没後100周年のフォーレ。
是非ともホール演奏を聴きたいので、フォーレ様、どうかお力添えをお願いいたします
(もし通過できたら、嬉しくて衣装新調しちゃうかも)
レッスン後の話
レッスンが終わって帰宅途中の車の中で、
「言われたことを楽譜に全部書き込んでいたんだけど、最後に弾いた時に先生に指摘されたところが全部修正されていて、〇〇(娘)は本当にすごいと思ったよ」
と言ったら、
「えー、別に…。あの曲は、同じことの繰り返しだから…」
と当たり前のように言うので、
「でも、昔T先生(娘の最初の先生)も言ってたけど、指摘されてもすぐに直せない人がほとんどなんだよ。
何回言われても同じ所で間違えて、先生が半ギレになっていた生徒さんも今まで何人か見たじゃない。
それに、指摘された箇所は沢山あったし、同じようなフレーズでも少しずつ違うことを言われてたのに、全部きっちり修正されてたよ
それって記憶力はもちろんだし、すぐに対応できる技術力も備わっているってことだから、やっぱり〇〇は凄いよ」
と思い切り賞賛したところ、ちょっと照れ臭そうに
「最近友達から、『(娘)とRちゃん(お友達)は全然勉強しているところを見たことがないのに、どうして授業の内容を全部覚えているし、何でも分かるの』って聞かれたんだー」
と教えてくれました。
※RちゃんはKO文系志望ですが、中学入試では次席合格で、今も全科目学年1桁で東大も余裕の成績なので、娘とは全然レベルが違うんですけれどね
勉強もピアノも周囲に凄い子が多すぎる環境のため、なかなか自信が持てないのかもしれませんね。
(娘が通う教室にはコンクールで全国金賞を取って藝大附属高に合格してしまう子や、1日3〜4時間ピアノの練習をしてコンクールの全国大会で入賞しながら医学部に合格してしまうような子が何人もいて、学校でも部活を頑張りながら医学部や東大を目指す子が10人以上いるので)
娘の中では「ピアノも勉強も、他の凄い人達と比べたら全然頑張っていない」と思っているようなのですが、平均的な高校生と比べたら結構頑張って…はいないか
ピアノや勉強は片手間で、オタ活に熱心みたいですね…
私も全貌はよく分からないのですが、どうやら娘には複数ジャンルの趣味があり、ジャンル毎に違うオタ友がいるらしい…?
グループで遊ぶことはほとんどないのですが、サシで遊ぶ子が何人かいるようです。
学校・家庭以外にピアノという「サード・プレイス」があり、それ以外にも軸があるのは素晴らしいことだと思います。
でも受験生なのだから、とりあえずもうちょっと勉強はしてくれ
おまけ:著作権の話
先生が
「プーランクって多分著作権が切れたのが最近なんじゃない
著作権が切れないと、確かコンクールの課題曲でも使用料を取られるんだよね。
判例では音楽教室では部分的に使用するなら使用料はかからないんだけど、演奏会で1曲全部弾くと使用料の請求が来るとか、面倒臭いんだよ。
JAS⚫︎ACが演奏会にスパイを送り込んで、こっそり演奏を録画して後で請求が来たなんていう話もあったらしい。
学校での使用は教育目的だからかからないんだけど、音楽教室だって教育目的でやってるのに、営利企業だからというのは理屈がおかしいと思うんだけどね」
と仰るので調べてみたら、プーランクの場合はちょっと複雑みたいですが、日本では2023年の5月にほぼ全ての楽曲の著作権が切れたようです。
「著作権があるうちは楽譜の値段が今の2倍以上だったし、プーランクの楽譜って製本が悪くてすぐにバラバラになるから、昔は誰も買いたがらないし弾きたがらなかったんだよね笑
よく弾かれるようになって来たのは、この楽譜(サラベール社、娘が使っているのは日本語ライセンス版)が出て著作権が切れてからじゃない」
長年の経験に基づく先生の蘊蓄、面白い…。