その髪の蒼さに | 宇宙が閉じた系でない限り

宇宙が閉じた系でない限り

マスターいつもの

玄関を開けると なつかしいにおいがつきぬけた


「あら なにしにきたの?」


ひさしぶり会いにきてやったと思ったらこの反応である


祐樹は、自分の事などおかまい無しに


せわしなく走り回る母に憤りさえ覚えた


相沢祐樹 22歳 


両親は祐樹が小学校の時に離婚し 今は東京で父親と2人暮らし 


高校を出てふらふらしていたが


今春 やっと当初の目的だった


美容師の専門学校を卒業し 美容院で働き出した


そんな祐樹が夏休みを利用して


幼少の頃住んでいた母の実家に帰ってきたところである




とりあえず することもないので2階に上がった


自分の部屋は小学生の頃のまま


なにもかわっていなく ほこりのない部屋は


いつ帰ってきてもいいようにと


いつも母が掃除をしてくれている証しだった


それに気づくと さっきの怒りを


ぐっと奥歯でかみしめて


そのまま真っ白なベッドに倒れこんだ


もっとも大人の祐樹が入りきるはずもなかったのだが



風が吹き込むと  田舎のせいか


真夏の空気がほんの少し涼しかった



・・・



 「ご飯出来たわよ」


母親のなつかしい声で目が覚めた


どうやらそのまま眠ってしまったらしい


台所に行くといつもの席に


夕食は大好きなコロッケだった


あいかわらずでっかくてちょっと笑ってしまった


味はというと 東京での外食に慣れてしまったせいか


若干薄くかんじたのが本音で


ソースを多めにかけて それを悟られないようにかきこんだ


それでも いつも一人で食べている母はどことなく嬉しそうだった



食事も済み 洗い物が一段落すると母が言った


「これトラ爺に届けてあげて


あんたに会いたがってたし きっと喜ぶわよ」


さっきのコロッケだった


「なつかしいな 元気かなぁ トラ爺」 


トラ爺とは母方の遠い親戚の女性のだんなで


熱烈な阪神ファンであったことから地元民にはこんなあだ名がついた


地元の子供たちのオヤジ的存在だった人物で 職業は床屋  


祐樹が美容師を目指したのもどこかでトラ爺の影響が


あったのかもしれない




「んじゃ 行ってくるわ」


玄関のサンダルを突っかけた




月明かりの一本道


薄れた記憶の断片を拾いながら


カエルの鳴き声を後ろに だらだらと歩く




「あっそうだ この道は遠回りなんだよな


神社通っていけば近道だった 」



祐樹は右手に長い石段を見上げた







その神社で 彼は運命の再会を


果たすこととあいなる訳であるが 


それはまた次回のお話・・・