ある日、トイレが占拠された。
朝、おしっこをしようとトイレのドアを引っ張ったら鍵が掛かっていた。
ドアをノックすると
「入ってます。」
と返事があった。年配の男の声だった。
自宅は郊外にあり、外の物陰で用は足せたが、こまった事態だった。
小用はその辺りで出来るが、そうでない時は自転車に乗ってコンビニまで走らねばならなかった。
ある日、急におなかが痛くなり、堪らずノックすると、
「入ってます。」
と相変わらずその声は言った。
「まだですか」と腹立ちまぎれに言うと、
「まだです。」
と男は言った。
時々水を流す音が聞こえてくるので、その度に「まだですか」と聞いたが、男は相変わらず「まだです」といつもの声で答えるだけだった。
比較的家の近くにあったコンビニの店員には顔を覚えられてしまい、ひとつ遠くにあるコンビニまで走らねばならなくなった。
酔って帰った夜、男の事をすっかり忘れてトイレのドアを開けようとしたが、やはり鍵が掛かっていて、思わず「いつ空きますか、」と尋ねると、
「もうすこしです。」
と男の答えはいつもと違っていた。
次の朝、また水を流す音がした。
いつもの音とは違う、長くゆったりとして、まるで心地良いため息のような音だった。
ドアは開いた。男は居なかった。
今まで掃除をしたことの無かった筈のトイレは、隅々までが新しく建てられたそれのように白く輝いていた。
買って来たままで使った事のなかった洗剤はなくなりかけていた。
私は毎日トイレ掃除をするようになった。相変わらずトイレへ入る前にノックをする癖は直らなかったが、あの清廉な男の返事が聞こえてくることは無かった。

今朝夢で見た実話より。
朝、おしっこをしようとトイレのドアを引っ張ったら鍵が掛かっていた。
ドアをノックすると
「入ってます。」
と返事があった。年配の男の声だった。
自宅は郊外にあり、外の物陰で用は足せたが、こまった事態だった。
小用はその辺りで出来るが、そうでない時は自転車に乗ってコンビニまで走らねばならなかった。
ある日、急におなかが痛くなり、堪らずノックすると、
「入ってます。」
と相変わらずその声は言った。
「まだですか」と腹立ちまぎれに言うと、
「まだです。」
と男は言った。
時々水を流す音が聞こえてくるので、その度に「まだですか」と聞いたが、男は相変わらず「まだです」といつもの声で答えるだけだった。
比較的家の近くにあったコンビニの店員には顔を覚えられてしまい、ひとつ遠くにあるコンビニまで走らねばならなくなった。
酔って帰った夜、男の事をすっかり忘れてトイレのドアを開けようとしたが、やはり鍵が掛かっていて、思わず「いつ空きますか、」と尋ねると、
「もうすこしです。」
と男の答えはいつもと違っていた。
次の朝、また水を流す音がした。
いつもの音とは違う、長くゆったりとして、まるで心地良いため息のような音だった。
ドアは開いた。男は居なかった。
今まで掃除をしたことの無かった筈のトイレは、隅々までが新しく建てられたそれのように白く輝いていた。
買って来たままで使った事のなかった洗剤はなくなりかけていた。
私は毎日トイレ掃除をするようになった。相変わらずトイレへ入る前にノックをする癖は直らなかったが、あの清廉な男の返事が聞こえてくることは無かった。

今朝夢で見た実話より。