「カルテット」監督が“みぞみぞ”した瞬間&名シーンとは | thankyou parsley

カルテットを結成した男女4人の思いが複雑に絡み合う大人のラブストーリー「カルテット」(TBS系)が、第92回ザテレビジョンドラマアカデミー賞の監督賞に選出された。人の不完全さを描いた坂元裕二脚本の会話劇の魅力を見事に表現した土井裕泰、金子文紀、坪井敏雄の3人を代表して、土井に受賞の感想を聞いた。

【写真を見る】土井裕泰監督が好きなシーンはここ

――「カルテット」は、主演の松たか子、満島ひかり、松田龍平、高橋一生の4人の俳優がとても魅力的でしたが、今回の作品において気を付けたことやこだわりなどはありました?

とにかく、今回これだけ力のある俳優さんたちがそろったので、ぼくが最初に意図したことに彼らをあてはめていくというより、この台本を受け取った俳優さんたちが演じていくことで生まれていくその瞬間を形にして積み上げていくことが今回は一番大事な作業だと思って演出していました。現場に入って、「さあやってみましょう!」と言う瞬間が本当に楽しく、“みぞみぞ”する、そういうドラマでしたね。

――坂元裕二さんの脚本の印象はいかがでしたか?

心に刺さるせりふが散りばめられ、思いもよらぬ展開にわくわくする、テレビドラマの楽しさに満ちた素晴らしい脚本でした。序盤にさりげなく書かれていたせりふが、実は最後までに見ると、とても大きな意味を持った言葉になり、意外な展開につながっていく。オリジナルのドラマの楽しさというか、どこにこの話が向かっていくのかわからずワクワクする感覚を、毎回本をもらうたびに、僕らもお客さんと同じように受け取っていました。最初に本を読むたびに“みぞみぞ”してましたね(笑)。

―― 一番好きなシーンや、ここがよかったと思えるシーンを教えてください。

第5話で、彼らがコスプレの仕事をした後に路上で演奏するシーンが大好きですね。弾いている4人の顔がだんだん笑顔になっていって、演奏していることの楽しさや喜びを体現していくシーンだったんですけど、せりふではなく、演奏している表情と雰囲気だけで彼らの色んな思いがちゃんと伝わってくる素晴らしいシーンでした。それをこっちで撮影しながら、いつの間にかこの4人のことをすごく愛おしく思っている自分に気が付いたんですよね。あと最終話で、楽屋で鏡ごしに真紀さんとすずめちゃんがしゃべるシーンがありましたけど、そこも撮っていて、“みぞみぞ”した大好きなシーンですね。

■ グレーなゾーンを色濃く描きたい

――「重版出来!」「逃げるは恥だが役に立つ」(共に'16年TBS系)の演出も手掛けられました。今回はだいぶテイストが違う作品でしたね。

テイストは違いますが、「重版出来!」も「逃げ恥」も「カルテット」も、特別な人たちではなく、どこか上手に生きられていない、そんな愛すべき人たちの話だと思って創っていました。立派なことを成し遂げた立派な人の話よりは、どこか欠落していて、ダメなところがあって、それでもなんか生きていくことに前向きでいようとする、そういう人間を描きたいなといつも思っています。最終的には「人生って悪いものじゃないな」ってささやかなエールを送れるような。そもそも人間ってみんないい部分もダメな部分もあって、嘘や秘密を抱えながら生きている、そのグレーなゾーンを今回は特に色濃く描きたいなと思っていました。

――今回の作品では、どのあたりにこだわられましたか?

今回の作品は、4人が食事をしながらしゃべるシーンがたくさんありました。ちゃんと食べながら会話をする、せりふを喋るというのは、実はとても難しいことなんですが、彼らがそこを本当にちゃんとやってくれたので、私たちが実際に起きている彼らのやりとりをこっちからのぞき見しているようなリアリティーが生まれたと思います。本当にすごい役者さんたちだなあと思います。

真紀のせりふにもありましたが、「食べる」ことは「生きる」ことに直結することでもありますから、実は食事のシーンはとても大事なシーンだと思って撮っていました。



※その他の受賞結果・各部門の順位詳細などに関しては、5月10日発売の週刊ザテレビジョン20号にて掲載中。