また母親から着信が入った
おとうさんまた意識が戻らなくなった
おしっこが出なくて熱もあがってるみたい
うそだろまじかよ
そう思いながら病院へ行った
今日は待っていられない
担当の医者を探した
迷惑承知で無理やり足止めした
医者はおどけた様子で
容体はまだ手術後から変わっていません
意識が戻っても回復していた訳ではありません
悪化もしていません
予断は許さない状況に変わりありません
あまりに淡々と説明されて怒りも悲しみもどこかにいってしまい
親父を信じて待つだけ
そうふっきれた時だった
数日後、また親父は意識が戻る
相変わらずハンバーガーが消えただのオレンジジュースまだ飲んでないのに持ってくなとか
面白い事を言ってた
今日病室移動するんだと言って俺と母親は、はいはいと返したが親父は不機嫌そうだった
これは本当だったからだ
ICU内に変わりないのが親父は不服だったようだが窓がある個室に移された
これで昼夜の区別が付くしICU症候群も完治できるといいね
確実に一歩づつ前進していると思っていた
俺も家族も
ただ親父だけは
そう思っていなかったのかもしれない
部屋を移動する直前
拘束されていた腕を俺のほうに伸ばし手を握ってほしそうだった
生まれて初めて親父の手を握った
それはとても冷たくて
親父死んでるんじゃねえかってビックリした
でも親父は俺の手を力なく握りながら目をつぶったままゆっくり頷いていた
その日の帰り道
親父の手を握った事が初めてじゃないことを思い出した
まだ俺が小さかった頃
ディズニーランドではぐれた時
親父が俺を見つけて俺の手を握ったんだ
遠い昔の温かい記憶
もう少し握ってやっとけばよかったな
また明日行こう
話をしに
手を繋ぎに