そすこの文章はKindleで出版した、
「与論島・小さな島のピアノ協奏曲」という本を連載形式で全文公開するものです。
『与論島の子どもたちに、最高の音楽体験を届けたい!』
この物語は、南の島・与論島で焼肉屋を営むナビが、即興演奏ピアニスト「日吉真澄」さんを島に招き、学校訪問演奏、そしてピアノコンサート開催を目指した、実際にあった約100日間の物語。
本文最後に、Kindle本のリンクがあります。一気に読みたい方はそちらから読んでいただけると嬉しいです🙇
当日はYouTube無料生配信も行います。ぜひ、当日は与論島へ、もしくはオンラインでYouTube、stand.fmから応援に駆けつけていただけると嬉しいです‼️
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♬第三楽章 『カウントダウン』
♩フレーズⅨ 〜浮かび上がる課題〜
2月10日、コンサートまで残り19日。
この日は、朝からもうフルスロットルだった。
まず、お昼過ぎには、託児コーナーをお願いしているハレルヤこども園へ打ち合わせに向かう予定がある。
さらに夕方には、コンサートでコラボしてもらう「ヨロンどれみ」のYUKOさんと、ひよさんを交えたZoom打ち合わせ。
夜はもちろん、焼肉屋の営業。スケジュールはびっしりだ。
更に、出来れば今日明日のうちに終わらせておきたい仕事もあった。町内の各家庭に配られる「くみちぎ」にチラシを入れてもらうための仕分け作業だ。
少しでも早く進めるため、午前中のうちに、約2000枚のコンサートチラシを持って与論町役場へ向かった。
与論町には、集落をさらに細かく分けた「小組合(こぐみあい)」がある。
アパートなら30世帯ほど、家が点在する地域なら数件だけ、という具合に規模はまちまちだ。
役場の一角には、大きな書類棚が並び、引き出しにはすべて小組会名が貼られている。その数は、ざっと130前後。
書類棚の前のテーブルには、それぞれの小組会の世帯数の一覧表が置かれていた。
つまり、くみちぎにチラシを入れるには、このすべての引き出しに、世帯数に合わせてチラシを数えて入れていく必要がある。
その後、引き出しの中身がその年の小組会長の家に届けられ、各家庭へ配布される仕組みだ。
与論町約2000世帯分のチラシを、全て1人で、手作業で数えて、引き出しに入れていく。
ハレルヤこども園との約束の時間が迫るが、2000枚のチラシはまだ、3〜4割ほど残っている。
一旦作業を切り上げて、ハレルヤこども園に向かうことにした。
ハレルヤこども園は、実は僕にとって特別な場所だ。
僕自身がここの卒園生であり、二十代半ばには給食室で働いていたこともある。
さらに数年前まで、今度は自分の子供たちがこの園にお世話になっていた。
四十年前にお世話になった先生も、一緒に給食を作っていた先生も、まだ残っていたりする。
この園にも、先生たちにも、とてもお世話になった。
打ち合わせでは、当日の託児スペースについて説明した。
子どもたちが安心して過ごせるように、できれば二つのスペースを用意したいこと。
一つは、赤ちゃんや眠くなった子をメインに、体育館から少し離れた場所で、静かに休める空間を。
もう一つは、体育館の端に半個室のようなスペースを設け、保護者がそばで見守りながら、コンサートも楽しめる形にする案だ。
利用人数はまだ読めず、保育士スタッフの人数にも限りがある。一番避けたいのが、スタッフ不足によるキャパオーバーだ。
だからこそ、子供は自由に遊べて、それを親が見守りながら、同時にコンサートの雰囲気も楽しめる環境を目指した。
そんな相談をすると、僕の予想を超える太っ腹な回答をもらった。
「この部屋の絵本や遊具は、何でも、いくらでも持っていっていいですよ。むしろ、この棚ごと持っていってもらっても大丈夫です!」
目の前にしていたのは、大人からしたら腰の高さくらいの本棚とオモチャ棚。
これくらいの高さでスペースを作ると、お子さん的には個室のようになり、大人にとっては開かれている空間になる。
お子さんを見ながら、コンサートの雰囲気も同時に味わうことが出来る。
なんとも、僕の理想にぴったりの提案だった。
本棚に加え、パーティションやマット類、音の出ない遊具など、まとめて貸してもらえることになった。
こうして託児スペースの目処が立ち、胸をなで下ろした。
子どものことは、やはりプロに頼るのが一番だと実感する。実際に預ける親の立場になっても、やはりプロが関わっている安心感は違う。
お礼として、園の職員さん全員分の、ファミリーご招待券をお渡しして、ハレルヤこども園を後にした。
そして、再び役場へ直行。
残っていたチラシを急いで小組会の棚へ振り分けると、そのまま急いで僕の焼肉屋へ向かった。
「ヨロンどれみ」のYUKOさんとのZoom打ち合わせは、17時から。
それまでに仕込みと開店準備を終わらせなければならない。気づけば、もうまもなく17時。
バタバタと、パソコンを立ち上げる。
この打ち合わせが、YUKOさんとひよさんの初対面だった。
まずYUKOさんが、この機会を作ってもらえたことに、熱い感謝を伝えてくれた。
島の子どもたちが、プロのピアニストの伴奏で歌える。そのことを、心から喜んでいるのが画面越しにも伝わってきた。
そして、ここで思わぬ事実が明らかになる。
ひよさんとYUKOさん、実は同じ音大の先輩後輩だったのだ。
さすがは音楽のプロ同士。
僕が全く考えが及んでいない部分で実は重要だったことなどが、いろいろ見えてきた。
特に「なるほど」と唸ったのが、ステージ上での立ち位置だ。
僕はお客さんから見て「さまになる並び方」くらいでしか考えていなかった。
ところが二人は、
「ピアノの蓋がどちら側に開くから、こっちの方が歌いやすい」
「客席に向きながら、合唱メンバーの表情も見える配置」
など、音楽の質を高める視点で話を進めていた。
もともとは、ステージと客席をはっきり分けず、体育館の中央にピアノを置き、お客さんにはその周りを取り囲むように座ってもらう予定だった。
ステージをフラットにすることで、演奏する側と聴く側の距離を縮め、より臨場感のある空間にしたかったのだ。
しかし、音の響きや動線を考え、配置は見直すことにした。
最終的には、入口正面の壁を背にして、ピアノを中心に半円状に客席を配置する形に変更した。
さらに「ヨロンどれみ」のメンバーには、小さなお子さんたちも多い。集中が切れないように、緊張しすぎないように、より歌いやすいように、出番の順番やリハーサルの時間まで、細かく丁寧に詰めていく。
この具体的なやり取りを目の前にして、
僕はひとつ、自分の足りていなかった部分に気づいた。
一番肝心の、ステージのシミュレーションが、圧倒的に足りていなかった。
そしてこの思いは、次の日、さらに大きくなることになる。
2月11日、コンサートまで残り18日。
この日は、もう一つのコラボ企画――
エイサー団体「舞弦鼓」さんとの打ち合わせの日だった。
前日、シミュレーション不足を痛感した僕は、昨夜のうちに会場の配置図を用意していた。
前日にピアノの位置が変更になったことも踏まえ、舞弦鼓メンバーの立ち位置案を数パターン作成し、それぞれを図に書き込んで準備した。
よし、今回は抜かりなし。
時間になると、舞弦鼓代表の小高明日香さん、そしてもう一人、元代表であり舞弦鼓の創設者でもある有馬淳(すなお)さんがZoomに参加し、画面には4人が揃った。
淳は島の後輩で、以前、僕の焼肉屋がスタッフ不足だったときに何度か手伝ってもらったこともある。
わりと気心の知れた存在だ。
エイサーだけでなく、ダンスも得意な多才な男でもある。
実は、この舞弦鼓とのコラボ企画も、淳が店のアルバイトに入ってくれた日に、何気なく相談したことがきっかけだった。
事前にそれぞれとやり取りを重ねていたおかげで、コラボの大まかな流れは、すでにある程度固まっていた。
舞弦鼓とのコラボでは、ひよさんのもう一つの顔「筆文字パフォーマー・日吉真澄」としての姿も、ステージの流れの中に組み込むことにしていた。
構成は、前半と後半の二部構成。
前半は、ひよさんと淳による一対一の即興セッション。
ダンスも得意な淳ならではのエイサーの即興演舞と、ひよさんのピアノのいわば即興対決。
そこから自然に後半へとつなぐ。
どこからともなく、エイサー本体の太鼓の音が、ひとつ、またひとつと重なりはじめる。
その音に導かれるように、それまで使っていなかった体育館ステージの幕が、上がっていく。
観客の視線は、二人の即興からステージへ移る。そこに現れるのは、舞弦鼓のエイサー本体だ。
太鼓のリズムと共に、舞弦鼓本体がステージを降りてくる。入れ替わるように、ひよさんがステージ中央へ。
そこに用意されているのは、大きな紙と一本の筆。
ここからは、エイサー×筆文字パフォーマンスのコラボレーションへ。
迫力の演舞の中、筆が大きく走る。
白い紙に叩きつけられる、力強い線。
太鼓の響きと共に、文字に想いが宿り、魂を帯びていく。
そんなステージ構想を、立ち位置案の図を使って説明していく。
それをもとに、お互いに意見を交わしていく。
筆文字の完成に必要な時間はどれくらいか。
移動は不自然なくいけるのか。
全体の流れに無理はないか。
特に、淳は即興コラボから全体での演舞まで、続けて演舞することになる。
大きな太鼓を抱えて、約十五分。
体力的に大丈夫なのか質問すると、答えたのは明日香さんの方だった。
「淳さんなら大丈夫です!!」
「あっ、はい!大丈夫……です!」
2人の関係性も面白いが、信頼の現れでもあるのだろう。淳もアワアワと笑いながら答えている。
ひとつずつ確認し、最終的にこの流れでいこうというところまでたどり着いた。
しかし、ここで1つ大きな問題が浮かび上がった。
それは「ちゃんとした音響設備を入れなくては、このコラボは難しいだろう」ということだった。
なんてこった!
恥ずかしながら、音響については深く考えていなかった。
一応、コンサートを企画した初期段階には、考えてなくはなかった。
学校の訪問演奏では、ピアノの生音で大丈夫だということになっていた。
そして、コンサート会場も体育館に決まったことで「同じ環境で大丈夫だろう」と、軽く考えてしまっていた。
しかし、コンサートまではもう3週間切っている。これから音響スタッフを探し、機材も手配しなくてはならない。
さらに、もうひとつ。
僕の中に、大きな不安が浮かび上がってきた。
当日のコンサートの進行や、コラボ紹介や注意事項などのアナウンスなど、司会的な立場は僕がするつもりでいた。
だが、立ち位置の図面化、音響の導入の検討、託児スペースの設置についてもそうだ。
打ち合わせの中で、全体像が見え始めたことで、現場が想像以上に、動きがあることが浮き彫りになった。
もし、その場でトラブルが起きたら?
予定外のことが起こったら?
そのとき、僕は司会をしながら、全体を見渡せるだろうか。
正直に言えば、自信がなかった。
いや、これは、気合いや準備でどうにかなる話ではない。
たったひとつの想定外で、全体が崩れる可能性もある。
何とかなると思っていてはダメだ。
当日、僕に固定の役割を持たせてはいけない。
僕は、全体を見渡し、動ける立場でいなければならない。
舞弦鼓の二人とひよさんとの打ち合わせは、ステージそのものについては、前向きで実りあるものだった。
気持ちの面でも、しっかりとした信頼が生まれているのを感じた。
きっと、最高のパフォーマンスをしてくれるはずだ。
そのためにも、最高のステージを用意すること。そして、当日、僕が全体を見渡せる環境を整えておくこと。
よし、日にちも少ない。すぐに動かねば!
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一気に読みたい方はこちらから
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📖約30名の方が協力してくれたKindle本朗読リレー📖
YouTubeUP版・再生リスト
【えっ⁉️これ本当に即興なの⁉️】
日吉さんの即興演奏をぜひ、聞いてみてください🙇
🎹ピアニスト日吉真澄・即興演奏『ヨロンブルー』🎹
2/21(土)の与論島ピアノコンサートまでに1万再生目指しています✨
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このコンサートは、島の方も、島外の方も、オンラインからも、より多くの方に感動を届けたいという想いから、『入場無料・YouTubeでの無料配信』で開催します。
そのため、運営費はチケット収入ではなく、この企画に共感してくださる皆さんの「応援」という形(ご支援・スポンサー)により運営されています。
ご支援は、コンサート運営費、学校訪問演奏、会場づくり、そして子どもたちへとつながる企画に、大切に使わせていただきます。
今回は、「花の苗で応援するプロジェクト」も実施予定です。
コンサートをきっかけに、卒業式・入学式を花いっぱいで迎えられるよう、島の学校へ花の苗を届けたいと考えています。
なお、運営費用を超えて集まった分は、与論島内の学校や子育て支援団体など、島の子どもたちの未来のために寄付させていただきます。
詳細・応援方法は、公式ホームページに掲載しています。
もし心が動いたら、ぜひ応援という形で関わっていただき、皆さんと一緒に、このコンサートの結末を迎えられたら嬉しいです。
「日吉真澄・ピアノコンサート『瞬音』in 与論島」
主催:「すみ火焼肉サム」店主・ナビ

