Climax
2018年 フランス、ベルギー監督:ギャスパー・ノエ
出演:ソフィア・ブテラ、キディ・スマイル、ロマン・ギレルミク、スエイラ・ヤクーブ
◼️あらすじ
人里離れた廃校で合宿を行うのは22人の若きダンサーたち。ダンス公演のリハーサルを終え、打ち上げパーティーに興じる。
しかし、ふるまわれた酒の中にLSDが混入していたことから、皆が錯乱状態に陥り、現場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。
◼️感想
鬼畜監督ギャスパー・ノエが『テラスハウス』を撮るとこうなる、みたいな(笑)。
僕が思うに、本作と恋愛リアリティ番組『テラスハウス』の共通点は下記の通りです。
・ひとつ屋根の下、若い男女たちが共同生活
「素人と芸能人の中間のような出演者」を起用しているのが共通してますね。本作ではソフィア・ブテラ以外は演技経験のないダンサーばかりを起用しており、「手が届きそうな」人物たちによるリアリティを醸し出しています。とは言ってもみんなそれなりに容姿は良いんですけどね。本作は男女22人なので、人数過多ですが。
・限定空間で入り乱れる愛憎劇
若い男女たちが共同生活しちゃったら、そりゃ〜もう色々ありますって!観客の覗き魔的な好奇心をグリグリと刺激する要素がタップリです。今夜はあいつとヤリたいとか、お腹の子は誰の子か分からないとか、収集のつかない人間関係が展開されます。
・「台本がない」
『テラスハウス』はこの点が色々と批判されていますが、建前としては「台本なしのリアリティ」というコンセプトでやっています。本作もまた大まかな展開だけ決めておいて、台本無しのまま、演技経験のないダンサーたちによる即興で細部を作り上げていったそうです。
(こじつけですが)以上の共通点があることから、ギャスパー・ノエが「これが俺のテラスハウス」と言ったかどーかは分かりませんが、本当にそう見えてくるから不思議です。
もちろん、そこはノエなので、ドラッグ、中絶、近親相姦、幼児虐待、といったお馴染みの要素が散りばめられています。また「道を踏み外し、人生の破滅へと向かう」という物語展開はいつもと同じです。
なので、酒池肉林、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開する『テラスハウス』だと思って下さい。
それでいて、どこか空虚な感じというのが両者ともに似通っていますね。『テラスハウス』はもともと虚構性の強い作風だったので中身が無いのは当然なのですが、本作は従来のノエ映画に比べるとテーマ性やメッセージが希薄に感じられます。
それはノエ自身がインタビューで語っているように、本当に「酒とドラッグは恐ろしい(笑)」程度のものなのかもしれません。
実際に本作はテーマ性やメッセージよりも表現やスタイルのほうに重きを置いている感が強く、ある意味では肩の力が抜けたノエ映画という印象があります。
ではどのような表現・スタイルになっているかと言うと、本作はノエのミックステープ的な作品だということです。
タランティーノが自分の好きな映画を引用しまくって、ごちゃ混ぜにして再構築するのと同じような手法ですね。DJ的、サンプリング的と言ってもいいかもしれません。
具体的には、女性が発狂して奇声をあげながら地面をのたうち回るのは『ポゼッション』(1981)だし、赤や緑の大胆な照明は『サスペリア』(1976)、登場人物が自らの腹部を切りつけるのは『切腹』(1962)からの引用と思われます。
で、これらの引用元は作中でも堂々と公開されています。ダンサーたちへのインタビュー場面でテレビの右側にドッサリ積まれたDVDがこれらの映画というわけです。
このように正々堂々、元ネタをバラすあたりはミックステープ的であり、タランティーノ的だなぁと思いますね。
音楽はダフト・パンク、エイフェックス・ツイン、ジョルジオ・モロダーなどの2000年以前のテクノ楽曲の数々が並べてあるあたりはそのまんまDJ的な表現だと思います。
個人的にはテクノとホラーは相性がいいと思っていたので、こうしてテクノホラー映画を撮ってくれたノエには感謝です。
僕の評価:7点/10
本作に引用された『ポゼッション』についてはこちら