Funny Games U.S.
2007年 アメリカ
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:ティム・ロス、ナオミ・ワッツ、マイケル・ピット、ブラディ・コーベット

◼️あらすじ

湖畔の別荘にやって来た裕福な一家。
彼らは見知らぬ訪問者たちによって理不尽な暴力の犠牲になってしまう。



◼️感想

こいつぁ厄介な映画ですね。
本作で描かれる一家暴行事件が視聴者(観客)参加型だからです。

映画というメディアは新聞の記事とは違って、一義的なものではありません。

事実を誤解の無いよう正確に伝える(それ以外に意味や解釈が考えられない、一義的)のが新聞で、反対に観客が作品の意味や解釈を考えることができるのが映画です。

新聞は作り手から消費者への一方向的な伝達であるのに対し、映画は消費者が作品に対して能動的に考察することができるという点では双方向的だと言えましょう。

観客の解釈によって作品の価値が定まったり、想定外の意味を持たせられることもあるので、映画は作り手と観客とのコミュニケーションによって成り立っているとも考えられます。


僕が思うに、本作はその考えが大前提になっており、且つ観客とのより密なコミュニケーションを強いてくる映画なのです。

監督のミヒャエル・ハネケが観客に対して(非常に挑発的な態度で)「お前はどう思うんだ?言ってみろ」とハッパをかけてきて、観客はそれに対して真剣に思考しなくてはいけないようにできています。

その証拠に本作の中では登場人物が何度かカメラ目線で観客に向かって「あなたはどう思う?」とおもむろに訊いてくることがあるのですね。これは反応に大変困ります。これはコミュニケーションだからな、観てるだけでなくて応じろよ、という訳です。

では何について論じるのか?
議題は「映画における暴力について考えよう」です。


本作は善良な一般家庭が突如、不快で理不尽な暴力によって支配される様子を延々と描きます。
観客は誰もが子羊のように怯える家族に同時し、思わず感情移入してしまいます。

隙を見て逃げるんだ〜!
武器になりそうなものを探せ〜!
助けを呼ぶ方法があるはず〜!

観客は思わず、これまで観てきた映画の記憶から「助かる展開のパターン」を期待するのですが、その点で本作は非情です。助かりそうな予感は尽くスルーされ、伏線は見つかり次第すぐにドブに投げ捨てられます。

これ、どーゆーことかと言うと、ご都合主義の否定なんですね。絶妙なタイミングで助けが入ったり、伏線があった小道具で形勢逆転したりと、映画ならではのご都合に「んなワケねーだろボケ!」と言っているワケです。

「映画における暴力というものは映画向けに加工されたものであって、まさか現実世界の暴力と同一視してねーよなぁ?現実に目の前で暴力が始まったら、こんな風にお前らひたすら無力だからな!だろ?」

…とハネケは観客の頬をペチペチと平手打ちしながら問いただすのです。

理不尽な暴力の被害者の追体験をさせられた挙句、淡い期待もぜーんぶ否定される観客。ボンヤリした気分で「参加」すると一気に豪腕でねじ伏せられる映画ですね。

ただ、そういう作り手の意図を観客がスルーした場合、本作はただの下手で退屈な映画に成り下がってしまいます。

胸クソ映画と一言で言うにしても、一体何が胸クソだと感じたのか。展開なのか、作り手の意図なのか、の差は大きいと感じる一本でした。

僕の評価:6点/10




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