ラオスでの中国の動き  | ホーチミン市(旧サイゴン)在住・証券アナリストのタイ株、ベトナム株、日本株ブログ

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ホーチミン市(旧サイゴン)在住の証券アナリスト・竹内浩一が、ベトナムを中心に世界の金融市場を見渡すブログです。

 今年12月に、ラオスの初主催で東南アジア・スポーツ祭典「SEAゲーム」が開催されます。「SEAゲーム」の開催場所はビエンチャン中心部から南西約17キロで、125ヘクタールの敷地に2万人収容の競技場や2つの体育館などを建設中です。

 この競技場などの建設は、実は、中国が1億米ドルを援助し、中国企業が工事を担当、中国人3000人以上が仮設宿舎で寝起きしながら、約500人のラオス人とともに働いています。つまり、これはほぼ中国の「丸抱え」。中国政府は「お金」「企業」「労働者」もほぼすべてを提供して競技場を建設。完成後は、ラオス政府に「プレゼントする」ということです。まるで前近代に中華帝国が行っていた「朝貢外交」を現代にみるようです。歴史は繰り返す(History repeats itself)か。

 過去にも、最貧国のラオスは04年11月に東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議を初主催していますが、その際にもホテル建設などは中国の支援を受けています。

 相場の世界には「この世にフリーランチ(タダ飯)はなし」という相場格言があります。つまり、「全てのモノにはプライス(値段)がついている」ということ。かの「金儲けの神様」邱永漢氏も(「処世上の良い意味で」)著書のなかで「若者には旨い飯を奢ることにしている。彼は一生忘れないだろうからね」とも書かれています。

 中国は「競技場建設」の代わりに、ビエンチャンに「巨大中華街」を建設する許可を得ています。つまり、ラオス政府が「巨大中華街建設認可」や「中国ビジネスマンに滞在許可を発行」することは「見返り(プライス, Price to pay)」と云えるでしょう。
 
 ラオス政府関係者によると、「巨大中華街」の候補地は、建設中の競技場近くと今春開通した国際鉄道の新駅周辺の2カ所が有力だそう。表向きは中国・ラオス両政府共同の新都市開発事業と説明されていますが、関係者によると「実際は中国商人に滞在許可を与えて住ませる計画」とのこと。「SEAゲーム」の前に今春開通した国際鉄道とはビエンチャン(ラオス)/ノンカイ(タイ)を結ぶもので、中国がタイ貿易の利権(の一部)を狙っていると推測できます。 

「巨大中華街」計画では数10年契約で5万人の中国人を受け入れ、中国のベンチャー企業を中心に商業施設や居住区などを整備する予定。期限後はラオス側に引き渡されます。早ければ年内にも着工見通し。

 ビエンチャンの人口はビエンチャン地域(県)では60万人ですが、都市部の人口は13万人程度に過ぎません。実際に訪問してみると、ビエンチャンは「タイの田舎都市よりも田舎」という印象です。13万人都市に5万人の中国商人(?)・・・机上の計算では、人口の28%を中国商人が占めることになりますね。ビエンチャン都市部には現在でも中国人が多いし・・・このまま行くと多分、過半数以上を中国人が占めることになるでしょう。

 ビエンチャンの中国化・・・??これは数世代(?)後には現実化するかもしれません。既に、ラオス政府もハノイ(ベトナム)の顔色ばかりをみている時代ではなくなっています。

 インドシナと陸続きの中国の「対東南アジア基本政策」は経済力を背景に昆明(雲南省)からバンコク(タイ)までの南北回廊を整備しつつ、東南アジア各国との結び付きを強めるというものでしょう。
 
 一方、それに対応する日本の政策は東西回廊(主に日本が支援)で南進(南下政策)する中国に対抗しようというもの。日本が支援する東西回廊は、ミャンマー、タイ、ラオス、ベトナム4カ国を横断する「東西回廊」(全長約1450キロ)と、タイ、カンボジア両国を結ぶ「第2東西回廊」(同1000キロ)。現在、メコン地域で日本が拠点を置く国家であるタイには約1300社の日系企業が進出しています。そして、そのタイと東西回廊で結ばれるカンボジアやラオスは労働賃金はタイの数分の1の水準で、物流網の整備さえ進めば両国への第2工場建設などで、日系企業にも大きなメリットをもたらします。

 大袈裟に言えば、19世紀後半にアフリカを舞台にして行われたイギリスの3C(カルカッタ、ケープタウン、カイロ)政策とドイツの3B(ベルリン、ビザンティウム(イスタンブール)、バクダード)政策を連想してしまいますね。その意味では、日本としてはバンコク-プノンペン-ホーチミンの3拠点は最重要拠点となります(笑)。
 
 個人的意見ですが、官僚組織の大きいベトナムのホーチミンよりもバンコクに近いプノンペン(カンボジア)の方が当面は期待できると思います。ホーチミンはシアヌークビル(カンボジア)よりも巨大な「プノンペンの港湾都市」という位置付けになるかもしれません。但し、課題はカンボジアのイメージです。いまだに日系企業には、カンボジア=地雷、内戦、危険という「イメージ」が刷り込まれてしまっています。先週、バンコクでPPSEZ(プノンペン経済特区)の上松取締役に面会していただいたのですが、やはり「イメージ」が課題と仰っていました。

 ラオスは中国、タイ、ベトナム、ミャンマーを結ぶ地政上の要地で、地下資源(ボーキサイト、錫など)も豊富です。
 共産主義で土地所有権取得はできませんが、仮にビエンチャンに長期の土地使用収益権が購入できるのなら良い投資対象になるでしょう。

 (参考)「ふうみん」さんが作成したメコン(東西・南北)回廊の地図URL