カンボジア訪問記 第4回  | ホーチミン市(旧サイゴン)在住・証券アナリストのタイ株、ベトナム株、日本株ブログ

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ホーチミン市(旧サイゴン)在住の証券アナリスト・竹内浩一が、ベトナムを中心に世界の金融市場を見渡すブログです。

プノンペン経済特区(PPSEZ)取材

 プノンペン滞在中に、プノンペン経済特区(PPSEZ)の上松氏(マネージングディレクター)に2度ほど取材をさせていただきました。上松氏はフィリピン大学で修士号を取得。その後、フィリピンの清水建設現法、日本のオークヴィレッジ社勤務を経て、現在はPPSEZで大車輪の活躍中です。

 カンボジアに経済特区制度が導入されたのは2005年12月。まだ3年の歴史しかありません。(カンボジアの)経済特区の最も大きな特徴は、例えば工場進出投資手続きや工場進出後の輸出・輸入など様々な手続きが経済特区内で可能となる「行政ワンストップサービス」を導入したこと。

「行政ワンストップサービス」により、企業側にとっては多数の書類を持って各省庁を回るなどの手間のかかる業務の必要がなくなりました。原則として、全ての手続きが経済特区内で可能となるわけです。もちろん、工場団地企業として「電力供給」「通信施設」「上下水道システム」「汚水処理システム」「堤防」などのサービスを提供しています。

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「プノンペン経済特区(PPSEZ)は単なる民間企業のプロジェクトではなく、カンボジア政府プロジェクトと認識している(上松氏談)」。首都プノンペンと港湾都市シアヌークビルを結ぶ国道4号線沿いにプノンペン経済特区(PPSEZ)はある。上写真はPPSEZのゲート。

「プノンペン経済特区(PPSEZ)」のウェブサイトはココをクリック

 以下、海外企業がカンボジアに工場進出投資する場合のメリットを簡単にまとめてみました。

 (1)外国企業への土地リース99年間認可(更新・転売も可)
 (2)9年間の優遇税制
 (3)付加価値税免除
 (4)輸入・輸出の関税免除
 (5)投資家、及び家族のビザ(査証)・ワークパーミット(労働許可証)取得
 (6)所得分の海外送金無制限など

 その他、カンボジア直接投資のメリットについては、安価な若年労働力が豊富なこと、経済的自由度(外資受け入れ無差別無制限など)が高いこと、フン・セン首相による安定政権、アセアン自由貿易協定(AFTA, Asean Free Trade Area)調印済み、日米欧3大市場での一般特恵関税制度(GSP, Generalized System of Preferences)、後発発展途上国(LDC, Least Developing Countries)として対日本・欧州で無税無枠(DFQF, Duty-Free Quota-Free)で輸出可能なことなども挙げられます。

 現在、カンボジアでは19ヶ所の経済特区が認可取得済み。しかし、実際に稼動しているのはプノンペンの「プノンペン経済特区(PPSEZ)」とベトナム国境沿いバビット(Bavet)にある「マンハッタン経済特区」のみという状況です。

「マンハッタン経済特区」は主に台湾企業出資の経済特区です。他に、シアヌークビル近辺に中国企業・カンボジア企業合弁の経済特区が現在建設中です。

 一方、「プノンペン経済特区(PPSEZ)」はそもそも日本企業が出資し日系企業をターゲットにしているところに特徴があります。工業団地内にはドライポート(物流センター)、住居地区、商業地粋(ショッピングセンター、多目的ホール、銀行、レストランなど)建設も含む総合タウンシップ開発で、第3期まで併せて工業団地総面積は360ヘクタールの予定。現在のところ、第1期(141ヘクタール)が完成した段階。第1期敷地は既に70%程度販売完了のようすです。

 プノンペン近郊で唯一の工場団地として人気も高く、現在10企業が入居中。入居企業には、日系企業のタイガーウイング社(靴製造)、ヤマハ発動機(バイク製造)も名を連ねます。ヤマハ発動機は来年(2009年)1月から工場建設を起工するとのこと。

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左:PPSEZオペレーション部門取締役・高橋氏、右:PPSEZのマスタープランを作成した日本開発政策研究所・勝俣氏(工学博士)。背景はプノンペン経済特区(PPSEZ)のモデル。
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PPSEZの大広告。左側にカンボジア国旗、右側に日本国旗がある。

 実は、今年(2008年)7月にPPSEZに出資中の日本の不動産会社(ゼファー)が民事再生法を申請しました。その結果、現在、PPSEZはゼファー本社とは別に完全独立体制に移っています。今後は、一時的に華僑系財閥グループ・アトウッド(ATTWOOD)社がゼファー社出資分を全額買取。その後、シンガポール、タイ、日本の大手企業の出資を仰ぐ計画です。

 上松氏によれば、今回のゼファー社の件はPPSEZに直接には影響はない、とのこと。また、上松氏は「カンボジアのアマタコーポレーション(注.アマタコーポレーションはタイ・工業団地業界トップ企業)を目標にする」と力強く仰っていたのを付け加えておきます。

 プノンペンは地理的にホーチミン市(ベトナム)とバンコク(タイ)の間に位置。プノンペンとホーチミン市の間は綺麗に舗装された国道1号線(カンボジア側)で車で4時間程度で結ばれています。また、プノンペン/シアヌークビル(カンボジア唯一の港湾都市)/ハートレック(国境)/バンコクのルートもカンボジア側橋梁が全て完成済み(2008年5月完成)。プノンペン-バンコク間は車で約8時間で結ばれました。
<今後は、シェムリアップ(アンコールワット)からポイペト(タイへの国境)までの未舗装道路(かなり前になりますが、TV「電波少年」で特集していた道路工事現場付近)の整備が課題になります。>

カンボジア地図
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 地理的にプノンペンがホーチミン市からプノンペン、バンコクを経てヤンゴンへ通じる「第2東西回廊」の「要」にあることは、長期的にプノンペンがインドシナ半島の交通の要所としての地位を占めることを意味します。また、メコン川のプノンペン港まで18キロ、カンボジア唯一の深港湾であるシアヌークビル港まで車で3時間程度(207キロ)であることもPPSEZへの進出企業には有利に働くと思われます。

 今後のPPSEZの課題は「電力」。カンボジアには大規模発電所がないため周辺国よりも電気料金が2倍程度割高になっています。現在、1キロワットが25セントですが、来年には18から19セントまで値下げを予定。周辺国のタイでは10セント、ベトナムでは7から8セントのため、現在はカンボジアの割高感が目立ちます。

 上松氏はカンボジアに豊富に採れるキャッサバなどを利用したバイオエネルギー発電や温暖化ガス排出権の利用などを考慮しているとおっしゃっていました。また、長期的にはメコン圏で水が豊富なラオス、カンボジアは資本導入ができれば、水力発電に適した地形の多い国ではあります。

2015年には「アセアン経済共同体(AEC)」が創設

 今年(2008年)12月15日には東南アジア諸国連合(ASEAN, アセアン)の最高法規となるASEAN憲章が発効し、インドネシアのジャカルタ外相会議で記念式典が行われました。ASEAN憲章の発効でASEANは国際法上の法人格を持つ「多国間組織」となり、2015年の経済共同体構築に向け大きな一歩を踏み出しています。

ASEAN(アセアン)各国の人口
順位国名人口
1インドネシア2億3,845万人
2フィリピン8,785万人
3べトナム8,423万人
4タイ6,486万人
5ミャンマー(2002年)5,430万人
6マレーシア2,613万人
7カンボジア1,380万人
8ラオス560万人
9シンガポール435万人
10ブルネイ35万人

ASEAN(アセアン)と他の経済圏との比較(2005年時点)
加盟国数地域・国名人口(億人)GDP(億、米ドル)1人当たりGDP(米ドル)
10ASEAN(アセアン)5.508,6191,079
3北米自由貿易協定(NAFTA)4.30140,00032,558
27欧州連合(EU)4.56130,00028,509
6メルコスール2.5010,0004,000
1中国13.0823,0001,702
1インド11.308,002678

 2015年には「アセアン経済共同体(AEC)」が創設される計画です。東南アジアの地図(参照、下地図)をみていると、インドシナ5カ国(タイ・ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー)のなかでのカンボジア(プノンペン)の地政学上の重要性が理解できます。

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カンボジアはベトナムとタイを結ぶ地政にある。将来の「アセアン経済共同体(AEC)」、特にインドシナ半島部の要地だ(出所、日本アセアンセンター)。