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 とりあえず言われた通りのものを用意し裁判所へ向かう。

 裁判所の方はとても事務的で機械のように仕事をこなしていた。

 相手に連絡が行き、調停員などの都合がつくまで一ヶ月は掛かるとのこと。

 君はひどく場違いな気がして、虚ろに作業を進めた。

 混乱と不安と恐怖の中、生まれて初めて『自分を見失う』ということを経験した。

 思考と行動が乖離するのだ。

 ハッと気が付いたら、何かをしている自分に気付く。

 これは思考のキャパオーバーにより、常にオーバーマインドの状態になっているのと、習慣により根付いた行動が自動運転のように身体を動かすから起きたものだと思う。


 自分にとって理不尽とも思える問題が起きる。

 そしてその問題や当事者、環境に対して怒りを持つ。

 怒りの裏側には恐れがあり、恐れの根底には不安がある。

 そしてその不安を一つ一つ『覚悟』に変えていく。

 あらゆる問題は一つの事柄だけではなく、いくつもの事柄が複雑に絡み合って起きている。

 その不安な事柄の一つ一つを紐解き、覚悟に変えていく。

 時には絡み合った不安を見極め、一つ一つ覚悟に変えていく。

 だから時間が掛かる。

 『気持ちの切り替えを上手にすること』と『覚悟すること』は違う。

 覚悟とは『最悪の事態に対する決意』の事だ。

 一つ一つの事柄を、
 受け止める。
 受け入れる。
 受け流す。

 けれど、全てが受け止めたり受け入れたり受け流したり出来るはずもない。

 そのような場合は出来ないことは出来ないこととして受け入れる。

 そしてそういうことを感じて考えて思いながら普段の生活をこなす。

 だから余計時間が掛かった。

 中にはそれが出来ない人や感じない人、考えることのない人や思えない人もいると思う。

 けれど、それも全て正しいことだと思う。

 人間は全て違う人なのだから正しい答えなんて無い。

 だから相手の価値観をお互いに認めて受け入れて生きて行く必要があると思う。

 その理論思考は、君が君自身を守る為に行っていた。

 苦しい、悲しいという感情を、君はロボットのように理論的な思考で客観視することにより理性を立ち上げ、封じ込めていたのだった。

 

 

続き

<さよならも言わずに>⑤