テリィの気持ち、キャンディの気持ち【19】(海の色 と 空の色) | 水色のリボン

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***** 小説キャンディキャンディ FINAL STORY (長い物語 の かけら  26) *****
 
(注意)いち個人の妄想のお話とご理解のうえ、お読みくださいね。 
 
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キャンディはテリィの幼い時の話を聞いていたらラガン家のことが頭をよぎり、テリィに伝えておくべきことがあることを思い出した。
「あのね、ラガン家について言っておきたいことがあるんだけど…」
「それはニールのことか?」テリィの表情も声も、急に変わった。
「そう。いいそびれたことがあったの」 
シカゴでのアードレー家に向かう道中、アーチーは一族の事業についての説明をしてくれた。
ラガン家についてもしていたのだが、ニールのことは一切触れはしなかったのだ。
テリィが不機嫌になるのはわかっていたが、キャンディはそれについて早く伝えておきたかった。
 
「今のニールは仕事に専念しているの。非情な事業家になっていて、昔とは変わったの。
私をとにかく避けていたし。だから昼食会にも参加しなかったと思う。
だから、いつか会ったとしてもそういうことだから、わかってもらえる?」
「『避けていた』って、会ったってことだよな。それはいつどこでだ?」キャンディが言い終わるやいなや、鋭い声で質問が飛んだ。
「もう数年前のラガン家のホテルのオープニングパーティーに呼ばれた時のことよ」
「呼ばれたからってよく行くよな」声がきつくなるのがわかったが、テリィはそれを押さえられなかった。
「アードレー家の一員として呼ばれたし、大おじさまも一緒だったから。それに懐かしい人たちにも会えると思ったからよ」
キャンディがそう言うと、テリィが少しほっとしたように見えた。 
「そのパーティでラガン夫人は私の過去の悪い噂をみんなの前で否定してくれたの。だから行く意味はあったの。それにずっと会っていなかった懐かしい人たちにも会えて、たくさん話せてすごくよかったの。
たくさんの辛かった出来事が全て懐かしいものに変わったと思った。
だから、ラガン家のことはあなたも気にしないでほしいの。ニールのことも含めて」
キャンディはテリィにどうしてもわかってもらいたかった。
 
「君はあんなことがあってもあんなやつを許せるのか?」テリィは全くすっきりしなくて、思わず質問をぶつけた。
「何ていうか、もうずっと昔から知っていてどうしてこんな人なのかとは思うけれど、理解みたいなものはしているというか…」
「そうだよな、おれより長い付き合いだしな。理解できるよな!」さえぎるようにイライラした調子でテリィが言った。
「そういうことじゃなくって…!!」思わずキャンディはカッとなった。
「嫌味がいいたいわけじゃない。君はそうやってだれでもを理解しようとするけど、そうしなくてもいい場合があるってことだよ」それは強いが落ち着いた口調だった。
「どういうこと?」
「『大嫌い』でいいんじゃないのか?」 
一瞬、キャンディはそのとおりだと思った。『ニールは大嫌い』、それは確かだ。
でも、そう言い切ったとしても、何も片付くわけではないのだ。
 
「あなたはそうだったの…?」
「え?」
「誰かにとても傷つけられたり、理不尽な事があったとき、その人を大嫌いになったり、それを否定する事ですっきりしたり、済んだりしたの?」 
テリィが聞いていることを確認して、キャンディは続けた。
「そうではないでしょう?あなただってその人がどうしてそうするのか、どうしてそうなったのか、理解しようとしたり、原因を考えたり、いろいろ思い悩んできたんじゃないの…?
そうやって自分なりに折り合いをつけてきたと思うんだけど…」 
テリィは黙ったままだった。
「私はニールを昔から知っていて、本当にいろんな嫌なことがあって、まさか婚約を求められることになるとは思ってもなかった。でもこんなふうに関わってしまったから、理解というか、折り合いをつけただけなの。
それ以上も以下もないの。そして『親戚』でもあるのよ」
キャンディの穏やかな口調で語られる話の全てを、テリィは自然に受け止められた。
「わかったよ」納得したようにテリィはそういった。
 
「もしあの場にニールがいたらどうしたの?」気になってキャンディはそれを聞いた。 
「君から何も聞かされてなかったからな。どうなっただろうなあ」とぼけた感じではあったが、その目は鋭かった。
キャンディは伺うようにじっとテリィを見た。
「今はわかったから君が心配するような事は絶対ない。約束する」テリィは表情を緩めてそう言った。
キャンディはようやくほっとして肩が下りた。
 
ニールは志願兵になるといってあの『かなりうるさい大叔母』まで脅したことをテリィは思い出していた。
命をかけるふりまでしたことは、到底理解できるものではなく、ただ呆れ果てていた。
そんなことを思いついて行動に移せる感覚など、全く理解不能であった。
ましてや自分の名を語ってキャンディを騙して誘い出し、別荘に連れて行く行為はどうにも許すことなど出来なかった。
そこで何があったかは、キャンディを信じるしかないと思った。
そして、その出来事をイライザが言わなかったことから、あのイライザが何も知らないということは確かだった。
このことはニールとキャンディとアルバートさんしか知らない事実であり、今更それを蒸し返すことはキャンディの名誉に関わるため絶対してはいけないことで、これはこのまま封印すべきだと思った。
 
そして、本当にこの一連の出来事が何事もなく済んでよかったと安堵した。
もしニールや他の誰かが、本当にキャンディのために命をかけるようなことがあったのならば、どうなっていたかと思うとそら恐ろしい心境にテリィはなるのだった。
キャンディの話から『昔とは変わった』とは思われたが、会って確認しないと気が済まないのも確かだった。
しかし今は何も関わりがないことは明らかであり、とりあえず心配する状態ではないと判断した。
 
「人って変わるもんなんだな」 テリィは気持ちを切り替えるようにそういった。
「イライザはぜんぜん!だったでしょ」
「そうだったな」テリィはアードレー家の書斎の出来事を思い出した。
「私、永遠にあのままだと思うのよ。あの巻き毛も」
「そうだな」そういったテリィだが、髪型の記憶はまるでなかった。
「まさかあなたに忠告するなんてね」 
「みんなの前で感謝をしたのはよかっただろう?」テリィがそういうと、キャンディは我慢できずに吹き出した。
テリィもつられて笑った。
今でも思い出すとおかしくてたまらないほど、イライザの慌てふためいていた姿はこっけいだった。
「あんなにうろたえた姿、初めて見たわ。これに懲りてくれたらいいんだけど」
キャンディはそうであることを本当に心から願った。
 
キャンディはニールについてテリィに言っていないことがあった。
それは別荘での出来事だった。何もなかったわけではなかったが、しかしそれについてはニールは永遠に言わないと思われたので、テリィに絶対言わないと決めていた。
ニールは過去のあの一連の出来事を恥じていると、キャンディは感じていた。
だからいつもあのように私を避け続け、関わりを持ちたくはない態度でいるのだと思っていた。
ニールがあのような行動をとったのは、ずっと私の生い立ちを蔑み召使のように見ていて、いいなりになるものと驕った考えがあったと思われてならなかった。
ニールは自分のしたことがどんなに愚かしく恥ずべき事だったかを、いつかわかったのだろう。
しかし、何もわかっていないイライザは、自分の兄の恥ずかしい過去の出来事を平気で口に出来たのだ。
そんなイライザを、キャンディはつくづく本当に残念な人だと思うのだった。
 
キャンディはイライザが自分を陥れようとするたびに、転機があるような気がしていた。
あの兄妹がアニーに意地悪をしようとしたから、いろいろあって結局滝に落ちて、アルバートさんに会えたのだ。
泥棒事件が原因でメキシコへ行く途中では、ジョルジュに助けられて養女となって戻ってこられた。
馬小屋事件がきっかけで、自分の気持ちをはっきりと知り、人生を自分で決めたいと思った。
そしてあの旅の経験があって、私は看護師になることを決めたのだ。
今回はニールとの一連の事をテリィに思わぬ形で知らせることが出来て、けじめに拘っていた彼がすぐに一緒に暮らすことを決め、予定より早く一緒にいられるようになった。
本当にどんな出来事にもプラスとマイナスがあるものだと思う。
しかし今後は、イライザとのこのような関係は遠慮したいものだと思った。 
 
 
「そういえばあの日はいい天気だったな」テリィが思い出すように言った。
「そうね、すっきり晴れた日だったわね」
あの日のシカゴの空は雲ひとつなかった。そして空は青ではなく、淡い淡い水色だった。
とびきり優しい水色で海みたい、と思ったことを、キャンディは覚えていた。
テリィはシカゴのキャンディを思い出していたのだが、気になる事がよぎった。
「大おば様はどうしておれにはうるさくなかったのか?」テリィが聞いた。
「さあ。気が変わったのかしら」キャンディはおそらく自分がアードレーを名のらなくなるから、と思っていた。
「でもきっとうるさいことを言い出すだろうな」テリィがそういい、キャンディもそれを想像できた。
アルバートさんが『君たちを見守る』と言ったことを、テリィは思い出していた。
今後いろいろなことが起こると思われるのだが、その言葉に心強いものを感じていた。 
 
シカゴのことを思い出したら、キャンディは話したいことがあった。
「アーチーは変わったでしょ?」
「ああ、そうだな。以前は『お坊ちゃま』だったからな」
「いろいろあったもの。ステアが亡くなって、勉強をすごくして、大学院へ行って、アニーとの婚約に反対を受けて大変だったし、子供も産まれたし…」 
「そうだな」
「それに、あなたと普通に口を聞くとは思ってもなかった」
「どうして?」
「もう昔の事だけど、嫌っていた様子があったから」
「そうだったんだ」
「感じてなかったの?」
「ああ。そういうの気にならないし」
「そうよね」それはとても納得できた。
「でもよかった。あなたもアーチーと普通に話していたから」
「おれはいつでも普通だよ」
「なんだか不思議なの。以前よりみんな大人になって、いろいろあって少しは変わって、でも自然で普通だったことが。前は受け止められなかったことが今は認め合えていたようで」
「おれが変わったってこと?」 
「前にも言ったけど、とても大人になって落ち着いたなあって」
「そうかあ?」テリィは納得できないようにそういった。
  
 
「アニーは随分前からアーチーを想っていて、私がレイクウッドへ行く前からなのよ。
アーチーがロンドンへ留学したから、両親を説得してまで海を渡ってきたの。
おとなしそうに見えるけど、とてもしっかりしていて勇気があるのよ」
「そうなんだ。君がロンドンへ来るときはどうだったんだ?」
「大おじさまの指示だったし、大おじさまへ恩返しをしたいと思ったの。ステアとアーチも一緒だったのは心強かったしね。そして先生方を見ていたら行くべきだと思ったの」
「ふーん、そうだったんだ」
「あのときイギリスは遠すぎると思ったのよね」キャンディは当時を思い出していた。
もうアードレー家の養女ではなくなったと思っていたけれど、見覚えのある黒塗りの車が迎えに来た冬の日。
あの時からテリィに会うことは決まっていたのかもしれない…。
 
「だけどアメリカへ戻るときはひとりで海を渡れたんだ」テリィが微笑んでそういった。
キャンディはそっとテリィの瞳の色を見た。やっぱり深い海の色だと思った。 
キャンディはテリィの瞳の色にいつも海を感じていた。
それは初めてテリィと会ったのが、海の上だったからかもしれない。
そのときの霧が立ち込めた星のない暗い夜空も覚えている。
テリィがアメリカへ旅立つときの海も印象的だった。
灰色に見えた海が昇りはじめた太陽の光をあびて、眩しい程に輝いていた―。
 
テリィの瞳の色は海のような緑がかった青い色。そして、アンソニーは朝の空を思わせる青い色。
似ているようで全然違う、そう思った。 
 
(続く)