テリィの気持ち、キャンディの気持ち 【17】 (紅茶のぬくもり) | 水色のリボン

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※テーマ名の先頭に「♣」は完結作文。「◇」は未完作文。
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***** 小説キャンディキャンディ FINAL STORY (長い物語 の かけら  24) *****
 
テリィ・キャンディ編。
 
ラストの予定でしたが、いろいろ考え、急遽変更を致しました。
最後は既にありますので、もう少しだけ、続きます。
 
(注意)いち個人の妄想のお話とご理解のうえ、お読みくださいね。
 
  
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テリィとキャンディは書斎で散々泣いてしまった。
それは「ようやく二人で始められること」に泣けたのだった。
涙を我慢せずに流せること、それを受け止めてくれる人がいること。
それはとても幸せなことなのだと、ふたりは思った。
 
涙のあとがかわいた頃には気持ちはすっかり落ち着いていた。そして、そっと顔を見合わせた。
ふたりとも照れくさくて笑うしかなかった。
それだけで、もう、わかった。お互い言えないと思っていた本心を言って泣けたのだ、と。
それは蘇った記憶でもあり、傷だらけのガラスのように刻み込まれていたもので、ずっと胸の奥底にあった。
それがふとしたきっかけで心の扉が開いてしまい、思わず口から出てしまった。
自分の気持ちを相手にぶつけたことで、心は羽根のように軽くもなっていた。
そして、テリィの顔には今まで見たことが無い素直で優しい表情があった。
それはキャンディの心を更にとかしていくものだった。
 
小さくひと息をつき、テリィがゆっくりと立ち上がった。
その長身な体は、床に座りこんでいるキャンディには、見上げるばかりのものだった。
「…お茶の用意が出来たから呼びに来た」思い出したように小さく言って、テリィは右手を差し出した。
まだぼんやりとしているキャンディに、「右手、だして」と微笑んで優しくそう言った。
言われたままにキャンディが右手を出すと、テリィはそれをしっかりと包みこむように握り、軽がると引き上げた。
 
テリィの繊細で大きなこの手は、この先何があったとしても私を導いてくれる――。
車中でもキャンディはそう思っていたが、今またそう思った。
テリィの手は絶対的に安心できるものだった。
手のひらから伝わる暖かさは、からだ中に波紋のように伝わっていった。
こんな感覚をキャンディは今まで知らなかった。 
身も心も安心できる――、それはきっとこういうことなのだ。
だから、テリィの手が離れる瞬間、不安と寂しさが感じられもした。
 
 
時間がかなり経過したため、お茶はすっかり冷めていた。テリィは手早くまた用意をした。
その慣れた手つき、ちょっとした所作も全く無駄がなくて美しいものだった。 
キャンディはテリィの動きにただただ見とれていた。
(誰だってこれを見たらこう思うわ…)キャンディはそう思った。
ふと、(スザナにもしたのかしら…)そんな考えが浮かんでしまった。
  
『スザナに愛情を持つことはなかった』、テリィははっきりとそう言っていた。
もしスザナが今のような彼を目にしていたとしたら、どんな気持ちになったかは想像できる。
友情はあったとしても愛されてはいない―、それは永遠の片思いのようだ。
もし彼からの愛情を少しでも感じたなら、『そばにいられるだけで幸せ』なんてありえないことだ。
きっと、結婚を求めただろう。
テリィがスザナと過ごした10年の歳月があるのは確かだ。しかし、そこに通い合う愛情は本当になかったのだ。
キャンディの中で小さな嫉妬はすぐに消えていった。
  
スザナのことを思ったら、キャンディはいろんな感情がわきあがってきてしまった。
どんな気持ちでいたのだろうか…、そう考えずにはいられなかった。
スザナは幸せだったとテリィに伝えていた。スザナはテリィと過ごした時間に幸せを感じていたのだ。
彼女の幸せは彼女の決めること、人には人それぞれの幸せの基準があるのだから。
テリィに何も求めないまま愛し続けることも、スザナにとっては幸せなことだったのだ。
そして、スザナは自分の死期を知っていた。あの短い人生の中で、彼女はきっと何かを掴んだのだろう…。
だから幸せだと言えたのかもしれない…。
キャンディはスザナの気持ちが見えた気がして、ようやく心を締めつけていたものがゆるくなるのを感じた。
 
テリィは『自分を愛してくれた人の死』と言っていた。
彼はスザナの気持ちをわかっていて、それを受け取っていた。だが、愛情を返すことはできなかったのだ。
愛はひとつだけではない。いろんな愛がある。それは私もわかっている。
ずっと見守リ続けられている【大きな愛】が私にあるように、テリィにはスザナの【無償の愛】があったのだ。 
それがテリィに様々な影響を与えたことも確かなのだ。
テリィが10年の歳月に、いろんなことを感じてきたことは明らかなのだから。
そして、スザナは1年半前に亡くなってしまった。
どんなにスザナを思っても、それが彼女に届く事はもう決してない。
そして、それはテリィとスザナのことで、私は立ち入れないことなのだ。
  
 
「レモンティーでいい?」テリィがキャンディを見て聞いた。
「…あ、うん。ありがとう」もの思いからキャンディは戻った。
テリィがいる。いろんなことを経たテリィがすぐそばに。そして、これからはずっとそうなのだ
再会したとき、彼は本当に包み隠さずに真実を話してくれた。そして、ずっと私を守ってくれている。
私はテリィを信じられる――。
目の前にある世界を信じるだけでいい、そうキャンディは思った。
 
テリィの入れてくれた琥珀色の紅茶は、とてもおいしいものだった。
それはキャンディの乾ききった体と心に、やわらかくしみていった。
ただ静かな優しい時間がそこにあった。
お互いの存在が感じられる穏やかな空間も、再会してからは初めてのものだった。
 
「おれたち、まだろくに話していないんだな…」テリィがそう口を開いた。
「うん…。ポニーの丘の数時間と、シカゴの半日と、今日の半日しか会っていないもの」 
「アーチーが驚いたのも無理ないか」そういってテリィはかすかに笑った。
「このお茶、とてもおいしい。…ありがとう」キャンディは感謝を込めてそういった。
テリィの入れてくれたレモンティーはほんのりと体を温めていった。
手にしたカップのぬくもりは、テリィの手のひらのあたたかさに似ているように思えた。
「それはよかった」テリィはキャンディを優しく見てそういった。
「茶器の扱いも丁寧だったし、テリィは器用なのね」キャンディがそういうと、「アルバートさんほどじゃないけどね」とテリィが言った。
「アルバートさん…?」キャンディは疑問の声を投げた。
「NYで会ったとき、アルバートさんがお茶を入れてくれたんだ。すごく慣れている様子だった。聞いたらいつもいれているって言っていた。以前、君が同居していたときにもそういうことがあっただろう?」
「言われてみればそうだったかも。でも、そんなの気にして見てはいないもの」
「そうなんだ」、おかしそうにテリィは言い、「おれのは気になったんだ」と強い目線でからかうように言った。
図星を突かれたキャンディは、「だって珍しいものを見たと思ったもの」と言い返し、やはり素直にいえなかった。
そうなのだ。テリィだから何をしても気になるのだ。思えば昔からそうだった…。
おそらくきっとこれからも、テリィの声やしぐさに私はときめいてしまうのだろう、そうキャンディは思った。
 
「アルバートさんはいいひとだけど、どこか謎なんだよな」思い出したようにテリィが言った。
「何かあったの…?」気になってキャンディは聞いた。
「NYで会ったとき、最後に妙なことを言っていたんだ。『君たちが羨ましい。一途で純粋で』って。
アルバートさんに何かあったようにも思えたけど」
そのときのアルバートの様子はテリィには引っかかるものがあり、やはり父のことがよぎるのだった。
「それなら以前も言っていたことがあるわ。私が昔、世話をしていた馬のカップルが10年ぶりに再会したときの喜びようを見て、同じようなことを言っていたもの」
「なんだよ。それじゃあアルバートさんにとって、おれたちは馬と同じなのか?」テリィはおかしそうに笑った。
「…そういえば、そのときも何か思い出しているようにも思えたわ。アルバートさんの事情はいろいろ知っているけれど、実は私もずっと謎が多いと感じているの」言わないでいようと思ったが、キャンディはそれを言った。
「君でもそう思うんだ」意外なようにテリィが言った。
「兄妹のように暮らしてもいたし、養父としてずっと見守ってくれてもいるし、特別な存在なんだけど、そう思うの。
どうしてかはわからないんだけど。いつでも誰にでもポーカーフェイスなのに、たまに本心を言ったりもするからかな。きっと、アルバートさんのことを本当にわかる人がどこかにいるとは思うんだけど」
それは私がテリィをわかるように。アルバートさんをちゃんと理解できる人が、きっと。
「そうだね」そういってテリィはお茶を飲みほした。 
 
つくづく私は思っている。私とアルバートさんとは不思議な糸でつながっている関係なのだと。
それは何があっても切れることのないものだ。だから別れなどない。
私がテリィと結婚しても、イギリスへ渡っても、決して変わることはないのだ。
そして、それは私の意思でつながったものではない。
ポニーの丘での偶然の出会いがあって縁ができ、アルバートさんがつなげてくれたもの、そう思ったりもする。
 
テリィとは、自らの意志で選んだ道があるように思える。
別々の道をお互い歩いていたけれど、今はふたりで同じ道を歩いている。
それはお互いそう選択した結果で、偶然でも奇跡でも決してないのだ。
 
 
「キャンディ、さっき、おれがお茶を入れている間、何を考えてた?」いきなりテリィが聞いた。
キャンディは思わぬことを聞かれ、黙り込んでしまった。
「何でもないことじゃないようだな」テリィは全てを見透かしているかのように言った。
「NYでアルバートさんと二人で会ったことは知っているよな」
「…うん」キャンディは手にしたカップを見つめたままそう言った。
「そのとき、アルバートさんは君との同居生活について伝えてくれたんだ」
「え?」そのままの姿勢でキャンディは驚きの声を出した。
「君にとっては何でもないことだったようだけど、おれが気にしていることをアルバートさんはわかっていたんだ。だから、わざわざそれを伝えてくれたってわけだ」
「そう…」キャンディは顔をあげられないまま、そう答えた。
「だから、おれも改めて言っておく。おれとスザナは神に誓って何もなかった」
キャンディは思わずテリィを見た。それは軽い調子の声ではあったが、その表情は真剣だった。
「君が迷っていても泣いていても、どんな君でもおれは構わない。ただ、おれを信じていてほしいんだ。
おれは俳優をしているから、それもいろいろあるんだけど。でも、自分から抱きしめたいと思うのは君だけだから」
そういってテリィはキャンディを更に強く見た。
 
テリィは迷いは何もないと、再会したときにはっきりと言っていた。本当にそうなのだ。
彼はずっといろんなことを受け止めてきて、全てのことが彼の中ではすでに昇華されているのだ。
スザナとの事も、あの別れも、あの事故も、私の知らないいろんなことも含めて、全て。
そして、今、真剣に私に向き合っている――、キャンディはそう思った。
「はい、わかりました」 テリィの眼差しを受け止めてキャンディは答えた。
『私はもう迷っていない』、それが伝わるように気持ちを込めて。
 
そのまましばらく見つめあっていたふたりだったが、テリィの表情がふとゆるんだ。
「そんな泣きはらした顔をしていたらどこへもいけないな」とかすかに笑った。
そして、「今日はここにずっといよう、キャンディ」 と言った。
 
 
 
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 (つづく)