こんにちは。ここ、吉野梅郷は、冷たい、雨が、上がりつつ、あります。午前7時頃の、室外温度は、5度5分。マイナス温度には、なっていませんでしたが、雨の、ためか、体感的には、かなり、寒さを、感じます。こんな時、あの、陽光の、温もりの、有りがたさを、何より、感ます。陽光が、満ち溢れる、春の、到来を、心待ちにも、している、一人でも、あります。

 

  昨日、鴎外全集第8巻を、あの、名作と、云われている、「雁」を、もって、読み終えました。幸徳秋水等、11人が、明治天皇暗殺計画を、企てたとして、処刑された、年の、昭和44年の2月1日発行の雑誌、「三田文学」に、鴎外の署名で、発表された、「゛カズイスチカ」に、始まり、同じく、明治44年9月1日発行の雑誌、「昴」に、鴎外の署名で、連載された、「雁」で、終了する、第8巻です。明治天皇の暗殺計画を、企てたとし、幸徳秋水等、11人が、処刑された、大逆事件は、当時の、文学に、どんな、影響を、もたらしたのか、臼井吉見は、その著、大正文学史の、中で、次の様に、記して、います。『大逆事件と乃木殉死の二つの事件は、いわば、当時の、文学の、試金石を、見ることが、できる。その反応は、われわれに、大正文学が、どこから、出発したのかを、示してくれる、はずである。』と。鴎外に、ついては、前回の、ブログでも、既述していますが、『大逆事件に鴎外も、鴎外なりに、この、事件に、対処した。』と、記し、幸徳秋水等、11人が、処刑されてから、1年後の、明治45年以降に、発表された、「五条秀麿」を、主人公とする、作品に、鴎外なりの、苦慮が、描かれていると、記します。私めは、まだ、これらの、作品には、到達して、いないので、臼井吉見の、云う、『五条秀麿は、大逆事件以来の、いわゆる、危険思想に対する、鴎外なりの、苦慮の生み出した,人物と考えられる。』と、記される、「五条秀麿」が、どんな、人物として、描かれ、鴎外の、どんな、思いが、その、人物に、託されて、いるのか、分かりませんが、臼井吉見の、繰り返す、「鴎外なり」という、言葉の、「なり」から、およそ、想像は、できます。作家、森鴎外としての、立場、そして、陸軍軍医総監、陸軍省医務局長、森林太郎としての、二つの、立場から、苦慮する、「森鴎外の心情」から、描かれる、作品で、あり、人物で、あると、理解します。大逆事件は、鴎外に、とっても、試金石で、あったことは、容易に、理解できるのです。大逆事件の、起こった、明治43年には、「食堂」という、作品が、発表されています。この、作品について、中村光夫著、明治文学史(筑摩書房刊)の、中で、仲村光夫は、次の様に、記します。「彼(鴎外)の官吏生活の一スケッチで、無政府主義のことが、話題と、なっている。幸徳事件の影響で、この短編全体が、事件の、刺激で書かれている。」と。鴎外も、大きな、影響を、受けたことが、分かります。さらに、次の様にも、記します。「幸徳事件の影響は、鴎外に、あっては、複雑に、屈折しているのです。四十四年の小説、カズイスチカ、妄想、蛇、百物語等には、ほとんど、痕跡はない。」と。私めが、昨日、読み通した、鴎外全集第8巻に、納められて、いる作品が、主です。大逆事件が、起こった、明治43年には、その事件に、反応して、「食堂」という、作品を、発表したのに、その翌年、幸徳秋水等、11人が、処刑された、明治44年に、発表された、作品には、大逆事件から、受けた、その,影響は、見当たらない、ということで、しょうか。確かに、作品を、読んで、みると、私めでも、その、点は、感じられます。鴎外全集第8巻に、納められた、作品の、中でも、「ロビンソン・クルーソー(序に変ふる會話)」や、「板ばさみ」という、翻訳物では、その、事件の、影響を、受けたのでは、ないかと、思われるのですが、確かに、他の、作品などは、まったく、影響を、受けている、あるいは、あえて、避けて、いると、思える、作品だと、思われるのです。明治文学史の中で、その、著者、中村光夫の、記す、「幸徳事件の影響は、鴎外にあっては、複雑に、屈折しているのです。」という、鴎外の、屈折した、思いが、その、年の、作品に、色濃く、反映されて、いるのでしょうか。中村光夫の、記す、「鴎外にあっては、複雑に、屈折しているのです。」という、指摘は、大正文学史の中で、臼井吉見が、指摘する、幸徳事件と鴎外との関連性と、同じ、ものだと、思われます。同時代の、作家の中でも、鴎外の、この、事件の、対処に、止まらず、明治時代に、作家として、生き抜いていこうと、する時に、伴う、苦慮は、どの、作家よりも、大きかった、筈です。中村光夫は、その、著書、明治文学史の、中で、鴎外の、文学を、生む、動力を、次の様に、記して、います。「ずぬけた才能に恵まれていたこと。周囲に適応して出世の道を、辿りながら、そういう生き方に、疑いを持ち、、不満を感ずる余力を、備えていたこと。その疑いと不満とが、彼の生活を、破る力を、持たなかったこと。それが、彼の、苦しみであり、彼の、限界でもあり、人間的な陰影として、文学を生む、原動力となった。」と。また、鴎外の欠点として、「真の詩人ではなく、反逆者でも、なかったこと(こういう議論もある)。」と、記します。さらに、鴎外存在の意味を、「非人間的な出世の道を歩んだ、明治の知識階級の中に、人間としての意識を失わず、それを文学に書きのこした鴎外がいたこと。」の、意味と、記します。鴎外の、作家としての、苦悩が、伝わってくるのです。幸徳事件の、影響の、痕跡すら,見られない作品が、ほぼ、納められている、鴎外全集第8巻本の、終わりの、2作品は、「心中」と、木下杢太郎などが、推奨する、鴎外の、代表作品とも、云われる、「雁」という、創作物です。最初の、「心中」という、作品などは、それまで、読み進めてきた、翻訳物とは、よほど、かけ離れた、戯作物として、私めは、読み進めました。「情念」が、際立つ、戯作物として、読み終えました。水上勉の、越前人形などの、作品が、蘇って、きました。そして、「雁」という、創作物。これは、2回目の、読みでしたが、明治という、時代の、風俗や、生活を、知ることが、できる、風俗史、生活史と、言う点でも、面白さを、読み取ることが、できました。そして、この、作品にも、「情念」というものを、読み出しました。終末の、場面など、怖ろしさすら、感じられます。そして、何よりも、主人公の、心理描写の、巧みさに、引き込まれます。それから、感じられる、主人公の、「情念」には、凄みすら、感じられます。色事も、さりげなく描かれます。全体を、通して、流れる、作風に、耽美派と、呼ばれる、作家の、作風すら、感じ取れるのです。これらの、大逆事件の、「た」の字も、感じられないような、作品が、なぜ、明治44年という、文学界に、大きな影響を、与えた、事件が、あった、年に、発表されたのか、興味は、尽きません。

 

もったいない読書から 金言抄 夏目漱石全集(筑摩書房刊)から 12

  1.  思ふに自覚心の鋭きものに安心なし
  2.  無我の境より歓喜なし
  3.  汝の見るは利害の世なり われの立つは理否の世なり 汝の見るは現象の世なり われの視るは実相の世なり
  4.  文明の道具は皆己れを節する器械ぢゃ 自らを抑へる道具ぢゃ 我を縮める工夫ぢゃ
  5.  醜を忌み惡を避ける者は必ず敗ける