tgagunevri1982のブログ

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2009年3月17日、火曜日。 まだ、太陽の昇らない街。 眠気覚ましに、僕は、何度も、仕事場のヴェランダに出て、タバコを吸った。 3月の冷たい空気を吸い、胸の真ん中をまっすぐに空洞ができ、そこを風が通る。 部屋に戻ると、また睡魔が襲い、そこは、黒い迷路の始まり。 この時間を、なにして過ぎればいいのか。 何度か、チャマの絆創膏を確認する。 いつもはどこかに隠してある懐中電灯を持ち、チャマの顔を照らさないように、手で半分を塞ぎ、見てみる。 この時、僕は、ドキドキが止まらない。 なぜなら、白ければいいのだが、もしも、黒くなっていたら、それは出血しているのだ。 それも、そこから漏れていて、知らない間に時間が過ぎていたりしたら、もしかしたら、大量出血している可能性だってある。 だから、眠れない。 だから、寝れない。 人は、どれだけ、眠らなくても平気なのだろう。 そんな事を思っている事自体、僕は、きっと、寝たいのかも。 嗚呼、寝たい。 嗚呼、寝たい。 でも、寝れない。 怖くて、寝れない。 そんな後悔だけは、絶対にしたくない。 自分の愚かさの中で、チャマを知らない間に失う事は、絶対にしたくない。 でも、どうしたらいいの。 いつまでも、こんな風に、寝ない訳にもいかない。 やっぱり、僕ひとりでは無理なのか。 かと言って、誰も、いない。 頼る人が、いない。 こんな時ほど、あと何人もの僕がいてくれたら。 5時。 何度目かに僕が布団へ座り、チャマの首を確認しようとした時。 「オチッコ」 チャマが、僕を感じて目が覚めたのか。 寝ぼけているのもあるけれど、フラフラしながら、僕につかまり歩く。 コンタクトレンズや眼鏡をしないと、チャマは、足元も見えないし、首も曲げれないから、ずっと、僕の顔を見ている。 「ポッポ」と、僕が言うと、歩きながら、チャマは唇を尖らせて、そこへ僕は、ポッポした。 チャマは、目をまん丸にして、「どうして、この子はいつも、ポッポするんだろう」と、言う目で、僕を見つめている。 僕は、ニコっとしたら、「ふっ」って、チャマは笑った。 長いトイレを済ませ、チャマはうがいをした。 首を曲げれないから、顔は上を向けない。 だから、口に含んだ水は、完全に喉を塞げずに、乾いた音がする。 それでも、一生懸命、うがいする。 放射線治療を終えてから、唾液が出なくなり、舌が乾くのだ。 そのせいもあって、喉の中の出っ張っている腫瘍も、乾く。 そして、それは、カピカピになり、痛いほど乾いて、ただでさえ唾液が出ず、飲み込む動作が裂けるほど苦痛なのだ。 例えるなら、口を開けて寝ていて、起きた際に、ゴクンと乾燥した喉を鳴らした時、少し痛いのと、同じ。 チャマの場合は、唾が無い分、それを、何十倍にもした痛み。 だから、うがいは大切。 唾液の代わりに、喉を潤ってくれるんだから。 キチンに行き、お茶を飲ませた。 「ミコ、寝なかったんでしょ」 「寝てたよ」 「さっき、腕伸ばして、ミコがいるか確認したら、いなかったよ」 「オチッコして、一服もしてたの」 また、僕は、嘘を、言った。 きっと、チャマにはお見通しだろうけど、何も言わなかった。 一緒に布団に入って、チャマの寝息を待っていたら、僕も、寝てしまった。 そんな時の目覚めは、急に起こされてパニくっているハムスターのように、布団の中で、体を何回転もして、起きる。 上空に散らばった浅い記憶が、一瞬にして頭に戻ったように、時間を確認した。 「やばいっ、寝ちまった」と、思いながら、チャマの首元を確認する。 「血、出てない」と、安心しながらも、今度は、チャマの呼吸を確認する。 「はぁ」、ここでやっと、一気に息を吐き、睡魔の余韻に戻る。 朝だ。 無事に、朝だ。 でも、ここでも、僕は、不安を煽る。 「寝ている間に、チャマは起きなかっただろうか」 「トイレに起きなかっただろうか」 「もしかしたら、声を掛けても、僕は目覚めず、ひとりで行ったのではないか」 考えたら、限が無い。 もう過ぎてしまった時間。 こうして、チャマは、無事なのだし。 でも、心は、寝てしまった後悔で、溢れて、垂れた後悔は、ドロドロに固まる。 チャマが起きたのは、9時30分を過ぎた頃だった。 今朝も、声から、元気は消えていた。 また、薬のために、ヨーグルトを二口。 そして、大量の薬。 オプソは、まだいいと言って、飲まなかった。 「今日も、調子悪いなぁ・・・」 何度も、ため息をする。 絆創膏を張替え、ソファに座ったかと思ったら、「また、横になってるね。ごめんね」と言い、布団へ寝かせた。 開けていたカーテンを掴み、窓から、外を見た。 「今日も、天気いいんだね」 「うん」 「今日は、暖かいみたい・・・」 「うん」 「少し、窓、開けたまんまにしとこぉ~かな」 やっと、僕らは、会話らしき言葉を交わした。 チャマは起きてから、喋りたくないオーラを発していて、僕は、煩わしくなりそうな余計な事を話さないでいた。 一緒に、いるのに、話しをしないと言うのは、本当に、悲しい。 まして、目を合わせないのも、本当に、淋しい。 病気でもなんでもない時は、全くもって、そんな事など、感じないだろう。 他の人はどうなのかな。 遮光性のカーテンを閉めると、明るい部屋は、一気に暗くなり、カーテンの上部から漏れる、照り返した陽が、天井を少しだけ明るくしていた。 「何かあったら、すぐに呼んでね」 「うん・・・」 「寒くないかなぁ」 「大丈夫。気落ちいいよ」 「・・・」 「ミコ、今日は、バイト休まなくてもいいからね」 「・・・大丈夫なの?」 「うん。休んでばっかりだと、バイト代少なくなっちゃうし」 「うん」 「来月も、病院代とか、薬代とかで、大変だからさ」 「そうだね」 「ごめんね、ミコばっかり」 「えっ、平気だよ。気にしなくていいんだから」 「ごめんねぇ」 「チャマちゃん、謝んなくていいんだから。ミコが具合い悪くても、チャマは同じ事してくれたでしょ?」 「・・・」 「ね」 「・・・うん」 僕は、チャマが謝ると、いつも同じ事を言う。 でも、これが、一番の説得力を持つ言葉だから。 チャマだって、絶対に、僕の為にしてくれるはずだし、いつか、僕が足の靭帯を痛めて歩けなかった時、いっぱいしてくれたんだから。 あの時、どんなに嬉しくて、こんな感情もあるんだと、初めて知ったんだから。 だから、自然の如く、こうして、僕は、チャマの為なら、なんでもできるんだから。 そして、また、僕はひとり、歩いても、歩いても、進まない、黒く渦を巻いた、迷路に吸い込まれてゆく。 早く老人に、なりたい ...