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三年前、あれほど怯えて「もう二度と近づきません」と泣き喚いていたはずの女の声だった。
「あら、奥様。まだ健ちゃんを縛り付けてたの? 驚いたぁ。とっくに解放してあげたんだと思ってた」
「縛り付けてるわけじゃないわ。ただ、ルールを守れない犬を躾けてただけ。でも、ゴミ箱に捨てたはずの粗大ゴミをわざわざ拾いにいくなんてね」
「ゴミなんて酷い言い方。健ちゃん、私のこと全然忘れられなかったんだよ? 一度燃え上がった本物の恋は、法律なんかじゃ消せないの」
理沙の声には、かつてのような罪悪感は微塵もなかった。
むしろ、本妻から再び男を奪い返したという、歪んだ優越感に満ち満ちている。
「本物の恋、ね。それを世間ではただの『再発』って呼ぶの。数年経ってもちっとも学習しない、ただの哀れな不治の病」
「なんとでも言えばいいじゃない。健ちゃんは今、私の部屋に向かってる。今夜だって、本当はどっちが必要とされているか、奥様が一番よく分かってるんじゃないの?」
勝ち誇ったような理沙の声を聞きながら、私の胸の奥で、何かが静かに弾け飛んだ。
悲しみはなかった。
あるのは、決意だけだった。
私は自ら通話を切った。
スマートフォンの画面が暗転すると同時に、玄関の鍵が開いた音が静かな家に響いた。
「まだ起きてたんだ。急な接待が入ってさ……ちょっと飲みすぎて……」
赤ら顔でへらへらと笑う夫を見つめ、私はただ一言、告げた。
「さっき理沙さんから電話があったよ。あなたの帰りを待ってるって」
その名前が出た瞬間、健一の顔から一気に血の気が引き、土気色に変わった。
口をごもごもと動かし、言い訳を探そうと泳ぐ夫の視線の先。
私はテーブルの端に、あらかじめ用意しておいた書類を静かに滑らせた。
そこには、太い文字で「離婚届」と書かれていた。

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