『色街をゆく』補記 序 その4 | 断片的な日々 

『色街をゆく』補記 序 その4

2002年から筆者は、月刊誌『ドンドン』(日本ジャーナル出版・現在休刊)で歓楽街ルポ「日本性風土記」を連載することになった。


さて、現在ではあまり見かけなくなってしまったが、当時は風俗ルポの記事は大変に多く見かけた。その頃にはまだいくつも発行されていた風俗情報誌や、男性向け実話誌はもちろんのこと、一般の週刊誌などにも風俗体験レポートが載ることも珍しくなかった。筆者も、実話誌などにその手の体験ルポをいくつも書いたことがあった。


だが、筆者は新しくもらった連載で、そうした体験モノを書こうとは思わなかった。


まず、体験ルポと言うのはプレイ内容の紹介に偏りがちで、しかも「読者の好みに合わせるように」と、いろいろな脚色を編集者から求められることが少なくなかった。そして、脚色したとしても、どこかありきたりの内容になることが多かった。「余計なことは書かずに、料金などのシステムと利用手順だけで十分ではないのか」。筆者は、いつもそう思っていた。


なにより、体験ルポでは風俗店や女性のことばかり書くよう要求される。要求はされなくとも、その程度の記事の分量しかもらえない。ここが、筆者の最も不満なところだった。


風俗店や色街というものは、それだけで独立して存在しているわけではない。そこに至る道のりがあり、周辺には街があり、さらに歴史や由来がある。そうしたものを見て歩くだけで、いやむしろそうしたもののほうが、はるかに面白く楽しいといつも筆者は思っていた。そして、そうした色街とその周辺について、新しくもらった連載で書いていこうと決めた。


これを若月編集長に話したところ、気難しそうな表情のままぽつりと言った。


「うん、いいと思いますよ」


(つづく)