この物語はフィクションである。登場人物や場所や団体などもすべて架空のものである。
コンビニエンスストアでサラミとチーズと枝豆と、から揚げまでも買い込んで、完璧な宅飲み状態を構築したせいたんとメッフィーことメフィストフェレスが徒歩で向かった先は、2階建て10部屋の小さなアパートだった。
せいたんの借りている部屋は102号室だった。
まずせいたんが扉をすり抜けて入り、中からドアの鍵を開けた。
「お邪魔します」メッフィーが部屋に入ると風呂場とキッチンのにおいが入り混じった空気を感じた。メッフィーは自分の住んでいる山荘とは雲泥の差だがこれが日本の標準的な家なのだろうと思いむしろ珍しがった。
せいたんの住まいは不動産的に1Kと表現している部屋だ。入るとすぐにキッチンがあり、左のドアがトイレ、右のドアは風呂場があった。
料理はほとんどしないのだが炊飯ジャーがある。
せいたんは食事を取る必要がないのだが空腹感は人並みに生じるのだ。
「ホッケをフライパンで焼いてみたが、皮が張り付いてぼろぼろになった。魚焼きグリルは後が面倒なので横着したのがいけなかった」せいたんの所帯じみた発言にメッフィーは苦笑いするだけだった。
その奥のフローリング8帖の部屋はかなりシンプルだ。ベッドはなく一人掛けのソファー二つが、木製のテーブルと向かい合わせに置いてある。部屋の隅に事務机がありディスクトップPCのっていた、23インチのモニターを2つ使っている。
せいたんが不揃いのタンブラーを2つと皿を持ってきて、「飲もうか」と言いテーブルにそれらを置いた。
「赤でいいですか白も出せます」メッフィーはせいたんの方のグラスを持った。
「赤でいい」
メッフィーが持ったグラスの底からワインが湧いてきた。せいたんはその様子に驚愕するばかりだった。メッフィーは自分の分も造りだしている。
「乾杯」せいたんが言うと、
メッフィーは 「悪のために!」とグラスを高く掲げた。
「悪のために!」よく分からないなと思いつつせいたんも復唱した。
その赤ワインは程よく冷えていて渋みが程よくそれほど重くない。ミディアムボディの上質な味わいだった。せいたんがよく購入する780円のワインよりもかなり上等だ。
19世紀頃こんな感じのワインをどこかで飲んだ気がするとせいたんは思った。
つづく