改めて書く必要もありませんが、この物語はフィクションであり、ノンフィクションではありません。


 

高梨は夢の途中に声を聞いた。
「次、降ります」
乗客の誰かがバスの停車ボタンを押したのだ。バスを停めなくてはならない。そして自分も降りるのだ。
夢を観ていた。
後ろから声がする。高梨は振り返った。200円、財布を出さなければ。同時にいくつかの事をしようとしている自分に気づいている。振り返って後ろを見た、乗客が3人いる。特に不審なところはない。ポケットに手を入れ鍵と財布がある。車内の時計は2時30分を示している。
バスが停車したのを見計らって高梨は立ち上がった。後ろの2人づれも降りるのだろうと思った。200円ある?って聞こえたから。
硬貨を投入するとき、高梨はバスの運転席を見た。マニュアルトランスミッションだ。普段はバスに乗らないので改めて確認したことがなかった。まだバスはオートマチックトランスミッションになっていなのか。
なぜそんなところが気になったのか分からなくなってきた。バスを運転している夢を観た。そこまでは覚えている。
中野よう子は降りる人たちをただ眺めた。なぜか悲しい気持ちになった。
(私にはフルネームが与えられた。なのに退場しようとしている。降りたのは彼らなのに。そしてあの光ような人はは何なのだろう)
つづく