※この物語は物語であるという性質上、フィクションです。ノンフィクションですと言っても信じてもらえるはずもないのですが。したがって登場する人物や団体、商標などすべてが架空であって、実体と呼べるものがあるとすれば「これは文字です」という事実だけです。

 


高梨の夢の続き
俺は運転席に座ってイスの位置を調節しミラー類、ペダルの位置を確認した。
3ペダル、つまりマニュアルトランスミッションここまでは問題ない。2トントラックなら運転したこともある。でもシフトノブの隣にスイッチがあってギアは12速まである。シフトノブに1と2、3と4・・・11と12と、ひとつのゲートに2つの数字が描いてあるのだ。
「このスイッチはなんですか?」クラッチを切ってすばやくシフトチェンジする練習をしながら僕は聞いた。
「スイッチでHiLoを切り替えることで12段変速ということになる。このバスは排気量は12リットル、最高出力580馬力だ。トルクは3000N・m。長距離トレーラーのエンジンとミッションが付いてるそうだ。たしかスウェーデン製だとか。」
「ボルボですか?」
「スカニアだって。バス車体は特注みたいだけど。とりあえずHiモードで6速トランスだと思って運転すれば大丈夫だよ。ボタン押さなきゃ2,4,6,8って一個飛ばし変速になる。今日の積荷は軽そうだからね。アクセル踏みすぎると簡単にホイルスピンするぜ」
 (高梨の夢ここまで)
 
「ハーイ、しつもーん」メッフィーが手を挙げ言った。「この夢、変じゃないですか。高梨が知らない知識が出てくる。記憶にないことは夢に出来ないのでは?」
「2つ考えられる。1つは覚えてはいるけど、意識的には思い出せない記憶である場合。たとえばテレビとかネットで、一度見ただけの知識の断片とか。二つ目は人間の記憶は無意識下で繋がっているという説。それで多田さんの記憶または知識が流れ込んでるとか。」
「そんなことありえますか?」
「あるんじゃないかな。精神活動がすべて脳でおこなわれてると信じてるの?ユングが言ってる集団的無意識ってやつじゃないか?」
「ユングのあれは、人間たちの無意識の中に共通の歴史やらの原形があるってやつですよね。無意識の深層では知識までもがつながっている。ということですか?」
「分からないけど、現実にそうなっているのだから。それと残念なお知らせがあります。」
「何ですか?」メッフィーが心配そうに聞いた。
「高梨さんは次のバス停で降りる。」せいたんは停車ボタンを押した。
機械のアナウンスが「次、降ります」と言った。
「夢の続きはそのうち観られるだろう。我々も降りるよ」せいたんはコートの襟を立てた。
 
続く