この物語はフィクションです。実際の個人、団体、商標などが実在しているように感じられても、それは気のせいであって、一切関係がないことをたまに思い出しながら読んでください。
 

 市営バスの中の乗客は高梨、せいたん、メッフィーを含め5人。
 車中は午後の気だるい光に満たされていた。ある種の静けさ・・・もちろん音は聞こえる、次の停車場を伝えるアナウンスとバスのエンジン音。誰も乗らず誰も降りない状態がしばらく続いている。
  
 高梨は薬の影響があるため車の運転を控えるように医者に言われているので、バスに乗って通院している。
 高梨は車窓から景色が嫌いだ。不安な気持ちにさせられる。
 流れ去る小さな通りにまで家々がひしめき、人それぞれに生活や悩みや喜びがあること、一生の儚さを思うだけで気が遠くなる。
 
 過去の結果としての今、今の積み重ねとしての未来。一人だけでもカオス状態なのに、家族や社会や国家、世界などの集団となれば可能性は予測不能だ。
 そんなことを考えるとき、高梨には足元が揺らぐのを感じる。
 (揺れている)高梨はめまいを覚えてバスのつり革を見た。
 実際つり革はバスの挙動にあわせて揺れていた。その動きにはある種の規則性があるようにも
見える (社会の規則性については占星術や社会学が扱う幻だと高梨は思うことがある)
 「人間が分からない」高梨はつぶやいた。実際に声に出して言ったかもしれないと高梨は一瞬思った。
 
 せいたんとメッフィーはバスの後ろの方、高梨の席の2つ後ろに座っていた。
 「走っているバスが揺れているのは、当たり前ですね」メッフィーが言った。
 せいたんは人間の心の中を覗き、ときには心に影響を与えることができる。
 メッフィーはせいたんの読心術をモニターして高梨の心の中を見ていた。
 モニターはせいたんの体に触れていることで可能であることにメッフィーは気付いたのだった。
 
 「分かる必要がないことに煩わされているのは時間の無駄だろう、人間たちの時間には限りがあるのに。時空全体を視野に入れることの出来るところへは、人間はもちろんメッフィーや僕にも行けはしない」 
 「いま深いことを言ったのですか?せいたんさんは」
 「言葉にするとズレてしまう、正確には言えない。特に時と位置についての話は」
続く