この物語はフィクションです、だからそのつもりで読んでください。
よろしくお願いいたします。
前回のあらすじ
堕天使せいたんと小悪魔メッフィーは、せいたんが作った「人間から迷いや不安を取り去る薬」
の効果を観察するため、高梨をマークしている。
以下本編
精神科の診察室。精神科医と高梨、そして透明化しているせいたんとメッフィーがいる。
「診察してください」と高梨は言った。医師はカルテから顔を上げた。
メッフィーはせいたんの顔を覗き込むように見た。
せいたんはその視線を避けるように天井を見上げた。
「高梨、ちょっと変ですね。だいぶ変です」メッフィーがつぶやく。せいたんだけにしか聞こえない。
「躁状態が出てる」せいたんはカルテを覗き込んで言った、メッフィーの心の中に。
「そうじょうたい?」
「なんというか、テンションが上がりすぎている状態。いろいろな症状の出方があるけど、高梨さんの
場合は変に前向きというか神がかりと言うべきか」
高梨は精神科医の後ろの窓から差し込む光を見つめた。
「世界は美しいです」
医師は高梨の視線が自分の後ろに向いていることに気づき振り返って窓の外をみた。
「良い天気ですよね。最近はよく眠れますか?」医師は話を途切れさせないようにしながら、
カルテに記入してある「アルクメネ」のほかに何を処方すべきか考えていた。
「眠れていますよ、4時間くらいでしょうか。寝覚めがとてもいいです」
睡眠薬を追加。
医師は少し考える。アルクメネはそのまま、睡眠薬決定、精神安定剤はどれにしようか。
「高梨さんは今、お仕事は?」
高梨は首を傾げて答えた。
「辞めてしまいました。前に話したと思いますが?お忘れですか。
この歳で仕事を失ったら社会的に死ぬのかと思っていましたが、
そうでもないみたいですよ。贅沢は出来ませんが以前より幸せです」
「ああ、そうでしたね」精神科医といえど患者一人ひとりの出来事を把握しているわけではない。
医師は、適当に相槌をうちながら、多少の眠気がでるものも使えそうだと思う。
そしてカルテに必要な処方を記入した。
「睡眠薬と精神安定剤を追加します。睡眠薬は飲んだらすぐに布団に入ってください。
ふらつくことがあるので」
「ええ、以前飲んだことがあります。眠剤も安定剤も」
「そうですか、では、いいですよ。お大事にしてくださいね」医師はにこっと笑う。
「帰っていいですか、ではありがとうございます」高梨は丁寧にお辞儀をして診察室を出た。
「せいたんさん、アルクメネってのが例の薬でしたよね」
「んん、そうだよ。まだ初期の量だけど。今日は増やさないみたいだ。眠剤と安定剤だけ追加。
妥当な処方だと思うよ」
続く。