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【前回までのあらすじ】
更紗琉金のさらさちゃんは、水カビ病を発症していた。
「金魚の紹介その3」で紹介するその矢先の出来事だった。
病魚のため投入された薬品「メチレンブルー」によって、
青く染まった30cm水槽と人間世界の狭間でゆれる人と金魚。

第二話

30cm水槽に隔離された更紗琉金と、カメラを構えた僕が対峙していた。
塩とメチレンブルーが投入された水槽の水は、強烈な青色に染まっていた。
デジタルカメラのフレーム収まっている彼女の身体の紅い部分は、
青い水中では紫がかって見えた。

「いやよ、わたしブログになんか出ない。ゼッタイいや!」
更紗琉金は病床で身をよじって背を向けた。
写真を撮られることを拒んでいるのだった。
更紗琉金の身体からフワフワしたカビのようなものが、漂って拡散していった。
デジタルカメラから顔を離した僕は
彼女に掛ける言葉を探していた。
「10粒でどうだろう。今のギャラよりさらに10粒」
僕はテトラ・ゴールド・ミニ・ベーシックの容器を振ってみせた。
「嫌よ、その餌も嫌い。醜いカビだらけの私の写真を撮りたいの?私に恥をかかせるつもりなの?」
「芸術のためなんだよ。芸術であり、感動の闘病記」
「闘病記?馬鹿馬鹿しい。若く美しい更紗琉金の儚い最期。お涙ちょうだいのノンフィクション。
私は死ぬの?」
もしかしたら・・・僕は懸命にその思いをかなぐり捨てようとした。
「ありえない。そんなことはさせない。そんなことは考えるな」

隔離したのは他の金魚たちへの感染を防ぐのが目的だった。
「ゼッタイ治る?この青い水で治る?」
「治る治る。完全にびしっとしゃきっと治るよ」
僕は手に汗をかいてることに気づいた。
「1週間だ。1週間の辛抱。その間ちょっとだけ餌を減らす。
水温は上げない。既に28度以上あるし。心配ない」
僕はそれだけ言い終えると水槽に背を向けた。
メチレンブルーが水カビ病に有効かどうか分からなかった。
塩の量も十分とはいえない。
餌を食べなくなったら、もう長くはない。

僕たちはしばらく黙っていた。すると背後の更紗琉金が言った。
「・・・いいよ、一週間後なら写真。完全にびしっとしゃきっと治してくれるでしょ
ギャラは15粒アップね。そのテトラのはだめ。もう古くなってるよ。
今度はキョウリンのマリーゴールドにしようよ」
振り向くと、更紗ちゃんが笑っていた。
少なくとも僕にはそのように思えた。

(その後、更紗さんは回復し、この夏一回り大きくなったようだ。上の写真の時には既に回復に向かっており、実は余裕のブログ更新なのであった。'08.07.21追記)