坪井浩尚の最新作 | 「週刊・東京流行通訊」公式ブログ

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「OMEGA」と名付けられた椅子は、前脚と背もたれが継ぎ目のない滑らかな「オメガ」の文字に似た形になっており、厚さ4mmの木材から作られている。湾曲の中に帯状の流線型が表現され、優美かつシンプルだ。これはARFLEX
JAPANより発売された、デザイナー坪井浩尚さんの新作、「OMEGA」である。

坪井浩尚さんは東京生まれ、静岡育ちのデザイナーで、柔らかで人に優しい家庭用品のデザインを得意としている。作品はゆったりとして落ち着いており、シンプルで自然で、本来の姿に立ち返るような素朴なイメージに溢れている。「OMEGA」を例に取ると、背もたれと前脚が、流れる水のように、変化することも折れ曲がることもない曲線になっていて、視覚的に緊張を和らげる効果があるだけでなく、曲線の形状が人体工学に基づいて綿密に計算され、人が坐った時に肘や身体を置く位置がもっとも快適な姿勢になるように作られている。椅子全体が、どの角度から見ても隙のない美しい一体感を見せており、まるで緩やかに流れる音楽が凝固して具象的な実体になったかのようである。

過去の多くの作品の中でも、坪井さんは細やかで独特な考え方を展開している。例えばこの優美で精巧な「サクラサクグラス」である。丹念に磨き上げられ、薄墨色や淡いピンクのグラデーションを見せるクリスタルが、五枚の花びらを持つ古典的な桜の花の造型になっている。水を注いだ時に光が揺れ動いて作る模様にも、空のまま置いた時のガラスそのものの静かな色にも、桜の細やかさと優雅さが表現されている。さらに巧妙なのは、グラスの底の線描の印鑑のごときデザインである。冷たい飲み物を入れて表面に露がついたグラスをテーブルクロスや紙の上に置くと、水分が底部の桜の造型に沿って布や紙の上に移り、優雅な桜の形を残す。その後、水分の蒸発と共にこの桜の形も春の桜のように次第に色あせて消えていき、時間の推移に伴って変化する、動きのある美となるのである。

坪井浩尚さんは一つのデザインの中で自分のデザインへの考え方を語る。人々の気持ちや感覚は周囲のものの影響を受ける。
例えば茶道でお茶を頂く時には、芸術的な茶碗を用い、女性は和服を着て、普段とは異なる言葉づかいや動作をする。それと同じように、生活の中の小さな部分が人々の豊かな情感を喚起し、価値観に影響を与えることすらあり得るのだ。たとえ生活の中のほんの小さな部分に存在するものであっても、坪井さんのデザインしたものが私たちに柔らかで素朴な楽しさをもたらし、私たちを忙しい日常の中から解放して癒してくれるに違いない。












写真提供:(C)Nozomu Matsunaga/(C)ARFLEX JAPAN

坪井浩尚公式サイト http://www.hironao-tsuboi.com/
 ARFLEX JAPAN http://www.arflex.co.jp/